公開:2025年7月1日
チームで取り組むIBD診療の実態についてご紹介します。
公開:2025年7月1日
(取材日時:2024年11月11日 取材場所:東北労災病院 会議室)
独⽴⾏政法⼈労働者健康安全機構 東北労災病院
炎症性腸疾患(IBD)センター⻑/
⼤腸肛⾨外科 部⻑ ⾼橋 賢⼀ 先⽣
副センター⻑/消化器内科 部⻑ ⽩⽊ 学 先⽣
副センター⻑/⼤腸肛⾨外科 部⻑ ⽻根⽥ 祥 先⽣
副センター⻑/消化器内科 副部⻑ 枡 悠太郎 先⽣
腎臓内科 副部⻑ 神⽥ 学 先⽣
⽪膚科 瀨川 優⾥恵 先⽣
(現:東北大学病院 皮膚科)
整形外科 リウマチ関節外科部⻑ 奥野 洋史 先⽣
看護部 村上 華江さん
薬剤部 久保 昌孝 さん
炎症性腸疾患(IBD)の治療には薬物治療を中心とした内科的治療と、手術による外科的治療があります。これらの治療を行うにあたり、内科と外科の連携が欠かせません。実際に治療を行う内科医と外科医だけでなく、看護師や薬剤師、栄養士、メディカルソーシャルワーカーなど、多職種がそれぞれの専門性を活かして、患者さんの療養生活をサポートしています。また、腸管外合併症に対する皮膚科や整形外科、腎臓内科の関わりもますます重要になっています。そのような中で、どのようにして職種や診療科の枠組みを越えた連携を実践しているのか、東北労災病院の炎症性腸疾患(IBD)センターのスタッフの皆さんにお話を伺いました。
高橋先生 IBDに伴って全身のさまざまな臓器にあらわれる腸管外合併症についても注意しなければなりません。腸管外合併症としては、全体の約10~20%1)という高頻度で末梢関節炎が見られます。また、結節性紅斑や壊疽性膿皮症といった皮膚症状も同じくらいの頻度1)で出現することがあります。その他にも、ぶどう膜炎などの眼病変、原発性硬化性胆管炎(PSC)、膵炎、腎炎や尿管結石などの腎泌尿器疾患、下肢深部静脈等の血栓症などが腸管外合併症として知られています。
1) 「令和5年度改訂版 潰瘍性⼤腸炎・クローン病診断基準・治療指針」厚⽣労働科学研究費補助⾦ 難治性疾患政策研究事業 「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班)令和5年度分担研究報告書 p57 http://www.ibdjapan.org/pdf/doc15.pdf
奥野先生 整形外科には手指や股関節、膝などの関節炎、腰痛などを含む脊椎関節炎の症状でIBD患者さんが受診されることが多いです。その際、まずは脊椎関節症がIBDによるものなのか、それとも他の疾患によるものなのかを見極めることが大切で、採血やレントゲン、MRIなどの画像診断、関節穿刺などの検査を行って診断を行います。
関節症状に対する治療としては、痛みの症状を緩和させるためにNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の服用が一般的ですが、IBD患者さんにNSAIDsを使うと腸の症状を悪化させる可能性があります。そのため消化器内科や大腸肛門外科の医師たちと相談のうえで、患者さんの症状をよく見ながら治療薬を選択します。また生物学的製剤を使用しているIBD患者さんで、整形外科的症状の改善を優先する必要があるときには、消化器内科の医師に相談し、状況に応じて薬剤の変更をお願いすることもあります。
瀨川先生 皮膚科でもIBDの腸管外合併症を診察することは多く、IBD患者さんの約15%2)に皮膚病変が見られるといわれています。代表的な皮膚疾患としては結節性紅斑や壊疽性膿皮症があり、下肢に見られるのが特徴です。IBDの患者さんで、皮膚が赤くなって腫れたり、押したときに痛みがある場合は、早めに担当医に相談してもらえるようお願いしています。
消化管と皮膚はどちらも外界に接している臓器なので、組織学的な構造や免疫学的な反応に共通するところがあるといわれていて、消化器症状が悪化するとそれと連動するように皮膚症状が悪化することがあります。皮膚症状は目に見えてすぐわかりますし、患者さんからも訴えやすいので、IBDセンターの先生方と意見を交わしながら、重症化する前になるべく早期に治療介入することを大切にしています。
皮膚病変に対する治療でNSAIDsを使う場合も、腸管の炎症悪化につながる可能性があるため、なるべく外用ステロイド薬や消化器症状の副作用が比較的少ない薬剤で対応していきます。
2) 「令和5年度改訂版 潰瘍性⼤腸炎・クローン病診断基準・治療指針」厚⽣労働科学研究費補助⾦ 難治性疾患政策研究事業 「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班)令和5年度分担研究報告書 p60 http://www.ibdjapan.org/pdf/doc15.pdf
白木先生 皮膚科の先生には結節性紅斑のような合併症だけでなく、薬剤が原因で起こる皮膚症状でも大変お世話になっています。なかでもJAK阻害剤使用時に高頻度でみられる副作用の一つに帯状疱疹があります3)。帯状疱疹は痛みが強く早急な対応が必要なので、薬を使用する前に帯状疱疹の写真を見せて「このようなものが出てきたらすぐに病院に連絡してほしい」と伝えています。帯状疱疹は見た目に変化がなくても、痛みを感じたらすぐに連絡してほしい症状です。
3) 「令和5年度改訂版 潰瘍性⼤腸炎・クローン病診断基準・治療指針」厚⽣労働科学研究費補助⾦ 難治性疾患政策研究事業 「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班)令和5年度分担研究報告書 p61 http://www.ibdjapan.org/pdf/doc15.pdf
神田先生 腎臓内科で診る合併症には、患者さんご本人が自覚できる症状はほとんどなく、血液検査の腎機能に関する項目や、血尿やたんぱく尿などの検尿異常でわかることが多いです。症状としては、腎機能障害のほか、腸からの下血による水分の喪失、腸管切除による水分吸収の悪化、腹腔内の炎症による尿管の炎症や腎臓そのものの炎症などさまざまです。尿細管間質性腎炎もよく見られるものですが、血尿やたんぱく尿を伴わないことが多く、気づいたときには腎機能障害が起きています。また、薬剤性腎機能障害は5-アミノサリチル酸製剤などの薬剤でみられることがあるため、何が原因で腎機能障害が起きているのか注意して診察するようにしています。加えて、腎臓の障害は進行が非常にゆっくりであるため、長期的な予後を見据えて治療のタイミングを検討する必要があります。
白木先生 IBDでよく使う薬の中には腎臓に影響を与えるものもあり、腎臓内科の先生にはそういったこともアドバイスしてもらっています。腎臓内科に限りませんが、外科や皮膚科、整形外科の医師からも合併症に影響を及ぼす薬剤を教えてもらえることは薬剤選択でとても重要です。腎臓の合併症の診断や治療の体制はまだ十分整っていないので、専門家の視点で診てもらえるのは本当にありがたいです。