公開:2021年9月28日
更新:2024年10月
炎症性腸疾患のことで、一般的には潰瘍性大腸炎とクローン病のことを指しています。
監修:藤田医科大学 消化器内科 講師 長坂 光夫 先生
公開:2021年9月28日
更新:2024年10月
監修:藤田医科大学 消化器内科
講師 長坂 光夫 先生
原因が明らかにされていないクローン病を完治に導く治療法はまだ確立されていません。しかし、クローン病は、適切に治療を行い、病気をコントロールし続ければ、健康な人と同じように生活し、人生を送ることが可能な病気です。
クローン病は、多くの場合、炎症が活発で症状が悪くなっている「活動期」と、症状が日常生活に支障がない程度に落ち着いている「寛解期」を繰り返します。一度、寛解が得られた後に再度症状が悪化することを「再燃(さいねん)」といいます。
クローン病の治療目標は、活動期であれば「できるだけ早く寛解期に導くこと(寛解導入)」、寛解期であれば「落ち着いている期間を少しでも長く維持すること(寛解維持)」です。
クローン病の治療の基本となるのは、薬物療法や栄養療法を中心とした内科的治療です。しかし内科的治療で十分な効果が得られない場合には、外科的治療(手術)を行うこともあります。
クローン病の治療には、炎症を抑えたり、免疫機能を調整したりするさまざまな薬が用いられます。そしてそれらの薬の種類や投与量を、重症度・病期などにより調整しながら病気をコントロールしていくことになります。使用する薬については、医師、薬剤師などから説明を受けてください。クローン病に用いられる薬剤には、主に下記のようなものがあります。
◯アミノサリチル酸製剤
腸の炎症を抑える薬で、主に、軽症から中等症における寛解導入に用いられます。通常は経口で服用します。
◯副腎皮質ステロイド剤
強力な炎症抑制作用を持つ薬です。アミノサリチル酸製剤で十分な効果が得られなかった軽症から中等症の患者さんや、中等症から重症の患者さんに対し、寛解導入薬として使用されます。ただし、問題となる副作用も多いため、長期間の投与は推奨されていません。
◯免疫調節薬
体内の免疫反応を調節することで、炎症を抑える薬です。副腎皮質ステロイド剤の減量や離脱や、抗TNF-α抗体製剤と併用して用いることがあります。
◯抗TNF-α抗体製剤
炎症性サイトカイン(炎症反応を引き起こす物質)の1つであるTNF-αの働きを抑制する薬です。寛解導入、寛解維持のどちらにも有効で、アミノサリチル酸製剤や副腎皮質ステロイド剤などで効果が得られない中等症~重症の患者さんに使用されます。
◯抗IL-12/23抗体製剤
免疫反応を引き起こすIL-12とIL-23の働きを弱め、炎症を抑える薬です。抗TNF-α抗体製剤と同様に、アミノサリチル酸製剤や副腎皮質ステロイド剤などで効果が得られなかった場合の、寛解導入や寛解維持に用いられます。
◯α4β7インテグリン阻害剤
リンパ球の腸管への浸潤を制限し、炎症を抑制する薬です。こちらも、アミノサリチル酸製剤や副腎皮質ステロイド剤などで効果が得られなかった場合の、寛解導入や寛解維持に用いられます。腸に特異的に(限定して)作用するため、全身への副作用が少ないと考えられています。
◯IL-23p19阻害剤
炎症性サイトカインであるIL-23のサブユニットであるp19の働きを特異的に阻害するお薬です。主に栄養療法や、5-アミノサリチル酸製剤、ステロイド、アザチオプリン等で適切な治療を行なっても効果が得られなかった、中等症〜重症の患者さんの寛解維持に用いられます。
◯JAK阻害剤
炎症反応の元となる、炎症性サイトカインを抑制する薬です。α4β7インテグリン阻害剤と同様に、アミノサリチル酸製剤や副腎皮質ステロイド剤、免疫調節薬などで効果が得られなかった場合に、中等症から重症の患者さんを対象に、寛解導入や寛解維持に用いられます。
クローン病の治療において、薬物療法に並んで重要なのが栄養療法です。栄養療法というのは、食物の代わりに液体の栄養剤や栄養輸液から栄養を摂取する治療法です。口や鼻から液体の栄養剤を投与する「経腸栄養療法」と、太い静脈(中心静脈)にカテーテルを挿入し、そこから高濃度の栄養輸液を投与する「完全静脈栄養療法」の2種類があります。
食物による腸管への負担が減るため、栄養状態の改善と腸管の症状改善の両方が期待できます。寛解導入、寛解維持の両方に効果があり、患者さんの病状や状態に合わせながら、単独であるいは薬物療法と組み合わせて行なわれます。
中等症から重症の患者さんのなかで、薬物療法や栄養療法を行えない、あるいは行っても効果が得られないという方に対しては「血球成分除去療法」を実施することがあります。この治療法は、炎症の引き金になっている白血球の一部を血液から除去する治療法です。血液透析のように、特殊な機械を用いて体から血液を取り出し、ビーズなどで対象となる血液成分を吸着除去します。その後、再び患者さんの体に血液を戻します。白血球の中の顆粒球と単球のみを吸着・除去する「顆粒球除去療法(GMA)」がよく行われています。
クローン病で腸管が狭窄している場合には「内視鏡的拡張術」を行うことがあります。内視鏡的拡張術というのは、内視鏡を使って腸内にバルーンと呼ばれる風船状の医療機器を挿入し、それを膨らませて狭窄している部分を広げる内視鏡手技です。
内科的治療では十分な効果が得られず、社会生活に支障があるような場合には、腸管や肛門などに対する外科的治療(手術)が行われます。基本的に大腸をすべて摘出する潰瘍性大腸炎とは異なり、クローン病の手術は、できるだけ切除部分を小さくするのが原則です。手術が必要になるのは主に次のようなケースです。
難病情報センター (外部リンク)
「令和5年度改訂版 潰瘍性⼤腸炎・クローン病診断基準・治療指針」厚⽣労働科学研究費補助⾦ 難治性疾患政策研究事業 「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(久松班)令和5年度分担研究報告書(外部リンク)
『IBDを日常診療で診る』(日比紀文・久松理一編/羊土社 2017年)