公開:2022年3月16日
更新:2024年3月
チームで取り組むIBD診療の実態についてご紹介します。
公開:2022年3月16日
更新:2024年3月
(取材日時:2020年2月18日(火) 取材場所:札幌グランドホテル)
JA北海道厚生連 札幌厚生病院
副院長/IBDセンター長 本谷 聡 先生
外科 部長 山上 英樹 先生 *取材当時
(現:独立行政法人 国立病院機構 旭川医療センター 臨床教育研修部長)
小児科 部長 戸板 成昭 先生 *取材当時
薬剤部 山下 友輝 さん *取材当時
放射線技術部門 係長 松本 和久 さん *取材当時
看護部 臨床試験支援室主任 中野 まや子 さん *取材当時
看護部 科長 奥村 文子 さん *取材当時
栄養科 主任 須藤 綾子 さん *取材当時
メディカルソーシャルワーカー 今野 雄太 さん *取材当時
IBD治療は確実に進歩しているものの、治療は長期に及ぶため、様々なライフイベントや食事などの療養生活に対して不安を感じている患者さんは少なくありません。そのため、IBD診療には消化器内科や外科、小児科などの医師のほか、看護師、薬剤師、放射線技師、栄養科、メディカルソーシャルワーカーなどの様々な職種が連携し、患者さんに最適な医療を提供するとともに、患者さんの療養生活を支えることが大切です。
第1回は、IBD診療に積極的に取り組んでいる札幌厚生病院のIBDセンターのスタッフの皆様に、患者さんの療養生活を支えるサポート体制を中心にお話をうかがいました。
JA北海道厚生連 札幌厚生病院
副院長/IBDセンター長 本谷 聡 先生
看護部 科長 奥村 文子 さん
栄養科 主任 須藤 綾子 さん
メディカルソーシャルワーカー 今野 雄太 さん
本谷先生
本谷先生 IBDという病気は長期にわたり付き合っていかなければならない病気です。そのため、日常生活におけるセルフケアや様々な工夫が必要となります。そのようなIBD患者さんを支援するIBD教室が全国的に行われています。IBD教室とは患者さんへIBDの療養生活に必要な基本的知識を幅広く知っていただくための場であり、内容は多岐にわたります。IBD教室には消化器内科や消化器外科、小児科の医師のほか、看護師や薬剤師、診療放射線技師、管理栄養士などのスタッフが参加して、IBDの最新治療や社会制度、ライフイベント支援などの講義や調理実習を行うことが多いのではないでしょうか。また、相談コーナーを設けることで、患者さんやご家族からの不安や悩みを知り、アドバイスする場として活用することができます。普段は学校に通っている小児の患者さんに対しては、夏休み期間中にIBD教室を開催して参加できるようにしている医療機関も多くみられます。
須藤さん
須藤さん
IBDの食事療法は主に管理栄養士が指導するため、IBD教室では管理栄養士から食事療法についてお話しされることがあります。食事療法は、成人も小児も基本的には同じですが、味やメニューの好みが違いますし、小児の場合は学校での給食や遠足・就学旅行での食事の問題もあります。そのため、小児の夏休み期間中に開催するIBD教室では、特に小児の食事を中心にお話しされることも少なくありません。
IBD患者さんは、日頃から脂肪を制限されている場合が多く、「揚げ物やカレーライスを食べたい」という声をよく耳にします。その場合、揚げ物やカレーライスも、調理の工夫次第で脂肪量を減らせることを患者さんにお伝えして、メニューの幅が広がるような指導を行います。IBD教室などで、実際に患者さんの目の前で調理実習をしながらお話する機会があれば、調理の工夫がより伝わりやすいため、調理実習のような取り組みも広がっています。また、患者さんが気軽に自宅で再現できるようなメニューの開発も大切だと考えています。
奥村さん
奥村さん 私は、看護師としてIBD患者さんのライフスタイルやライフイベントに応じた支援を大切に考えています。IBD患者さんは、病気や今後の療養生活などの悩みを抱えていることが多く、その悩みは年齢やライフスタイルなどにより異なります。例えば、小児の患者さんの場合、食事のことやお薬の服用といった治療に関係することのほか、就学や就職などの悩みを抱えていることも少なくありません。また、妊婦さんに対しては妊娠中のIBD治療や出産後の療養生活について不安に思っていることが多いので、それぞれの患者さんの状態を把握した上で支援を行うことが必要です。IBD患者さんは、年齢も幅広く、悩みや必要としている支援は患者さんによって異なりますので、看護師は一人ひとりの患者さんに寄り添って、適切な支援をすることが求められます。
須藤さん
以前のIBD患者さんの食事は、高脂肪食によって腸への負担が増えることを懸念して、脂肪の摂取を厳しく制限していましたが、薬物療法の進歩に伴って現在は以前に比べて緩和されています。このため、「IBD患者さんはなるべく食べてもらいたい」という方針の医療機関も増えています。また、IBDの活動期と寛解期で脂肪制限の強度は異なるので、患者さんのその時の病勢に応じて食事内容にメリハリを付けることも大切です。
管理栄養士は、患者さんのライフスタイルや年齢、その時の病勢などに応じて、またご本人の希望にもできるだけ配慮して、それぞれの患者さんに最適な食事療法の進め方を提案しています。
今野さん
今野さん IBDは国で特定疾患(難病)に指定されているので、病状が一定程度以上の場合は医療費助成制度を利用できるほか、症状の程度が疾病ごとの重症度分類等に該当しない軽症の患者さんでも、高額な医療を継続することが必要な場合は医療費助成の対象となります。ソーシャルワーカーは、IBD患者さんの療養生活を支援するため、医療費助成制度などについて分かりやすく説明して、申請のお手伝いをするほか、患者さんに役立つ情報の提供にも努めています。
本谷先生
IBD治療の進歩により、かつては生活に制限を強いられていた時代から、適切な治療の継続により、食事はもちろん進学や就職、恋愛結婚も社会生活は普通にできるご時代になりました。しかし今もなお、副作用に悩まされながらの不本意な治療や、治療の甲斐なく血便や腹痛が続いている(寛解に至らない)患者様も多いかと思います。そのような時こそ、少しでも私たちがお役にたてればと思い、日々の診療にあたっています。
第2回は、IBDセンターのスタッフの皆様に、患者さん一人ひとりに適した治療を提供するための治療体制を中心にお話をうかがいます。>