Dr.コラム Doctors column

2016年4月

Vol.3 IBD 寛解導入療法 No.2
「普通の生活」を目指し、患者さんも治療参加を

症状のない状態が続く寛解維持や、病気で傷ついた粘膜が健康な状態に戻る粘膜治癒が可能になっているIBD治療。前回に引き続き、東京医科歯科大学消化器内科教授の渡辺守先生に、高い治療目標をもつことの大切さと、患者さんが治療方針の決定やその後の治療に積極的に取り組むことの意義について、お話をうかがいました。

IBD治療の目標は、症状を取ることではなく「粘膜を治すこと」

東京医科歯科大学消化器内科
教授 渡辺 守先生

IBDの症状はつらく、治療によってそれらをとることはもちろん大切です。しかし、お腹のことばかりに意識がいって、最近の治療目標である「粘膜を治す」ことが置き去りにされてしまうことが、案外めずらしくないのです。

「大切なのは治療目標を
高くもつことです」と
話す渡辺先生

前回のコラムでもお話ししたように、IBDの治療目標はいまや粘膜治癒です。かつては、IBDで傷ついた腸の粘膜は元に戻らないと考えられていましたが、薬物療法をしっかり行い、症状がなくなる寛解導入が得られた患者さんでは、腸の粘膜を健康な状態に戻すことも可能だということがわかってきました。そのことは、内視鏡検査と病理学的検査(細胞の状態を顕微鏡で見る検査)によって確かめられています。

薬物療法や栄養療法、血液成分吸着・除去療法の効果が現れ、症状がなくなると、患者さんも医師もほっとしますが、実はそこからが正念場です。治療の手をゆるめることなく、寛解の状態を長く保つための治療(寛解維持療法)を行うことで、寛解維持そして粘膜治癒へと駒を進めることができます。

寛解維持療法の基本も、IBD治療の基礎薬である5-ASA製剤を十分な量・十分な期間使用することです。寛解導入までに免疫調節剤やバイオ医薬品の抗TNF-α抗体製剤を使用した方は、寛解維持療法でもこれらの薬を使い続けます。

IBD治療の目標は病気を治すこと。それを患者さん自身がしっかり意識することが大切です。治療目標を高くもつと、治療の効果にもよい影響を与えます。

アドヒアランスをご存じですか?

「アドヒアランス」という言葉をご存じでしょうか。アドヒアランスとは患者さんが積極的に治療方針の決定に参加し、その治療方針に従って治療を受けることをいいます。どんな病気にもいえることですが、とくにIBDの患者さんには、アドヒアランスを大切にしていただきたいと思います。

病気と重症度を知り、治療法と副作用を理解する!!

積極的に治療に参加するには、ご自身の病気を知ることが欠かせません。潰瘍性大腸炎あるいはクローン病がどのような病気なのか、ご自身の病状が軽症なのか中等度なのか、それとも重症なのか、そして使用している薬にはどのような効果があり、どのような副作用に気をつけなければならないかなど、基本的なことを知っていれば、診察の際に医師の話がよく理解できますし、適宜、質問することもできます。また、病状の変化に早めに気づくことができれば、適切な行動をとることも可能です。

少しきびしく思われるかもしれませんが、同じIBDの方でも、軽症や中等度の方は病気を軽くみる傾向があり、反対に重症の方は悲観的になりすぎる傾向があります。

病気を軽くみて、せっかく寛解導入ができたのに、寛解を維持できずに再燃を招いてしまうのはとても残念なことです。とくにクローン病は、症状がなくても病気が進むことがあり、腸管が狭くなる腸の狭窄(きょうさく)や腸に穴があく穿孔(せんこう)が起きて、はじめて病気の進行がわかるということも皆無ではありません。

一方、悲観的になり考え込んでしまうと、病気に向き合う気力を失いがちになります。しかし、実際にはIBDの治療を受けながら10年以上普通の生活を送っている方がほとんどなのです。

病気に真正面から向き合うのは少し怖いというお気持ちが患者さんのなかにはあるのかもしれません。しかし、病気について正しく知ることで、IBDはそんなに恐ろしい病気ではないということをわかっていただけると思います。実際には、ほとんどの方が病気になる前の生活を取り戻しています。

アドヒアランスは、治療への前向きな気持ちを育みます。私も診察のときに患者さんのほうから、「次回は検査ですよね」といわれることがあります。治療スケジュールをしっかり把握し、積極的な治療参加の姿勢を見せてくれるようになると、患者さんと医師の間に一体感も生まれやすくなります。

このホームページをご覧になっている方は、病気のことをよく知りたいと思っていることでしょう。どうかそのお気持ちをもち続けていただきたいと思います。

症状が落ち着いたら、お腹のことを考えすぎない

病気をよく知ることが大切とはいえ、いつもお腹のことばかり考えていたのでは日常生活が楽しくありません。強い症状があるときは仕方がありませんが、ある程度症状が落ち着いてきたら、できるだけ普通の生活を送り、お腹のことを考えない時間をつくるようにしましょう。

たとえば、勉強や仕事、夢中になれる趣味をしている間は、お腹のことを忘れているという経験はありませんか? そういう時間をもつことはとても大切です。IBDの治療で目指す寛解維持とは、「普通の生活を送る」ということですから、基本的に何でもできると考えてください。仕事をもっている方は、仕事を続けていくことも普通の生活の一部です。

ところで、寛解導入したあとも、「今日は便通が何回あった」「何を食べた」といった記録をしている方もいらっしゃるようですが、私はあまりこれらのことにとらわれ過ぎると、普通の生活とはいえないのではないかと思います。だからといって、食事や便通に無関心で暴飲暴食をするというのも、普通ではありません。

1日3食をバランスよく食べ、よいお通じがあることを確認しながら、体に無理をさせないということは、病気であってもなくても、健康維持のためには心がけたいことです。

病気をあまく見ず、怖がりすぎないというバランスを保つのは、難しいと感じる方もいるでしょう。しかし、IBDの薬物治療はバイオ医薬品の登場などで大きく進歩しました。

体に負担の少ない検査法の導入で治療効果が向上する可能性!!

体に負担の少ない検査法の開発も進んでいます。便潜血検査やMRIの画像検査をIBDの検査に導入することは、日本が主導で行っています。

技術の進歩に伴い、腸の蠕動(ぜんどう)を気にせずに、高解像度のMRIでの撮影が可能となりました。これまでクローン病の検査は小腸の消化管造影検査が中心でしたが、最近では、日本で開発されたバルーン小腸内視鏡検査が行われています。さらに、MRI検査はバルーン小腸内視鏡検査と同等であるという結果が当院から示され、欧米ではクローン病を疑った際の第一選択となっています。MRIは被ばくがなく何度でも行える低侵襲な検査なので、病気の経過観察にも有用です。

これらは患者さんの身体的な負担軽減になるだけでなく、正確な病状を把握することででき、効果を上げる治療につながると期待されています。患者さんの治療への参加意識は、こうした進歩を後押しする原動力の1つにもなるのです。