Dr.コラム Doctors column

2017年4月

Vol.7 バイオ医薬品を安全に使うために知っておきたいこと(前)
~感染症対策~

バイオ医薬品のなかでもIBDの治療に使われる抗TNF-α製剤は、腸管粘膜の炎症に関わるTNF-αという物質にピンポイントで作用します。そのため副作用は比較的少ないのですが、より安全に効果的に使うためには、患者さんにもある程度のバイオ医薬品についての知識があると安心です。
バイオ医薬品を使用するうえで知っておいていただきたいことを、杏林大学医学部付属病院消化器内科教授の久松理一(ひさまつ ただかず)先生にうかがいました。このテーマは2回に分けてお届けします。今回は感染症対策についてです。

バイオ医薬品を使用する前には結核とB型肝炎の詳しい検査を行う

杏林大学医学部付属病院
消化器内科
教授 久松理一 先生


バイオ医薬品は、免疫の過剰な働きを抑えて炎症を鎮め、症状を改善する働きがあります。高い効果が期待できる一方、ウイルスや細菌などの異物を排除する働きも低下するため、感染症にかかりやすくなることが指摘されています。
したがって、バイオ医薬品を使用する際には、事前の感染症チェックと使用中のモニタリング(患者さんの状態を把握するために、継続的に観察すること)が欠かせません。
使用前の感染症チェックでとくに重要なのは、結核とB型肝炎です。


結核は、予防接種(BCGワクチン)や抗菌薬の発展によって激減した病気ですが、日本は先進国の中ではいまだ患者数が多い国です。
初期症状は咳や痰、微熱などで、これらがよくなったり悪くなったりと長引くのが特徴ですが、なかには症状のあらわれない方もいます。
体内に結核菌が潜み、発病準備状態にあることを「潜在性結核感染症」といいます。そんな潜在性結核感染症の方がバイオ医薬品を使うと、結核菌が増殖して結核が再燃してしまうのです。
安全にバイオ医薬品を使用するためには、使用前に結核の検査を行い、感染が認められた場合は結核をしっかり治してから使い始めます。

ただ、幸いなことに、日本ではバイオ医薬品による結核再燃のリスクについて十分な啓発が行われたため、結核が再燃して重症化する患者さんはほとんどみられません。

結核のおもな症状:痰、咳、微熱


次にB型肝炎ですが、これはB型肝炎ウイルス(HBV)の感染によって起こります。感染経路は、分娩時の母子感染など親から子どもにウイルスが伝播されることによる垂直感染と、個体から個体へ感染する水平感染の二通りです。水平感染では、性交渉がもっとも多く、ほかには入れ墨やピアスの穴あけに不衛生な器具の使用や共用のケースが考えられます。以前は注射器の使い回しによる感染もありましたが、現在ではほとんどありません。

B型肝炎に感染すると、血液検査でHBs抗原※1やHBe抗原が陽性となりますが、これらはやがて陰性となり、HBc抗体※2、HBe抗体、HBs抗体が陽性になります。抗体ができると肝炎の症状は治まり、肝機能も安定する方がほとんどです。
※1 抗原:からだにとって異質な物質であるウイルスや細菌
※2 抗体:体内の抗原を無毒化して排除する物質

しかし、バイオ医薬品によって過剰な免疫の働きを抑えることで、再びB型肝炎ウイルスが活動を始め(再活性化)、重症化する危険があります。そのような事態を避けるためには、使用前の血液検査が欠かせません。陽性の場合はさらに詳しい検査を行い、治療が必要な場合は、肝臓病の専門医へ紹介されることもあります。

B型肝炎のおもな症状:倦怠感、食欲不振、吐き気、黄疸(おうだん)

バイオ医薬品の使用中は感染症の予防と早期発見が重要

バイオ医薬品を使用中の患者さんは、どうしても感染症にかかりやすくなるため、感染症の予防と早期発見も重要です。
風邪やインフルエンザはもちろんのこと、健康な人なら病気にならないような細菌やウイルスによる日和見感染症※3にも注意しなければなりません。手洗いを心がけ、風邪やインフルエンザの流行シーズンにはできるだけ人混みを避けるなど、日頃から気をつけていれば予防は可能です。
とくに手洗いは感染予防の基本です。その効果は科学的に認められているので、食事の前や帰宅後の手洗いを習慣にしましょう。

もし、発熱やだるさなど、気になる症状が現れたら早めに病院に相談しましょう。患者さん自身が体調の変化に早く気づくことによって、感染症が悪化するのを防ぐことができます。

※3日和見感染:宿主(ウイルスや細菌に寄生される側の生物)が正常な状態のときには病原性を発揮しないウイルスや細菌が、宿主の抵抗力が弱まっているときに病原性を発揮して起こる感染性の病気。サイトメガロウイルス感染症、多剤耐性緑膿菌(MDRP)感染症、トキソプラズマ症などが含まれる。

バイオ医薬品使用中に「生ワクチン」の接種は避ける

予防接種に使用するワクチンには、「生ワクチン」と「不活化ワクチン」があります(表参照)。生ワクチンとは、生きた細菌やウイルスの毒性を弱めたものをいいます。一方、不活化ワクチンは、細菌やウイルスの毒性をなくしたものを原材料につくられます。

原則として、バイオ医薬品を使用中の方には生ワクチンの接種はできません。
これからバイオ医薬品を使う方には、必ずワクチンの接種歴を確認してもらいます。最近生ワクチンを接種した場合は、6カ月もしくは1年くらい間をあけてから治療を始めます。お子さんの場合は、母子手帳があると接種歴が確認できて安心です。

不活化ワクチンは、バイオ医薬品を使用中の方でも接種できます。インフルエンザワクチンについては、バイオ医薬品を使用していない人に比べてワクチンの効果がやや低いという報告もありますが、大きな違いは認められません。

【日本のワクチン接種の現状】

(参考:国立感染症研究所 感染症情報センター)

次回は、バイオ医薬品を使用されている方の妊娠・出産・授乳について、また、進学や就職・転勤などで新しい生活を始める際に、治療を継続するための注意点について、久松理一先生にうかがいます。
後編のコラムはゴールデンウィーク明けに公開いたします。