公開:2021年9月28日
更新:2024年8月

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エキスパートインタビュー

IBDの治療やケアについて専門医にお話を伺います。

IBDにおける腸管外合併症

IBDは、大腸や小腸といった消化管だけでなく、皮膚や関節をはじめとする全身のさまざまな部位に病変が発生することがあります。これらの病変は一般的に腸管外合併症と呼ばれ、下痢や腹痛などの主症状に加え、多くのIBD患者さんの悩みの種となっています。今回は、主な腸管外合併症について、その特徴や治療法、注意する点などについて、藤田医科大学の消化器内科で講師を務める長坂 光夫 先生にお話をうかがいました。

藤田医科大学 消化器内科 講師

長坂 光夫 先生

(取材日時:2020年10月7日 取材場所:名鉄グランドホテル)

長坂光夫 先生1

藤田医科大学 消化器内科 講師

長坂 光夫 先生

その他の腸管外合併症

口内炎、関節炎、皮膚病変といった代表的な合併症のほかにも、IBDにはさまざまな腸管外合併症があります。そのなかでも比較的多いのが尿路結石と胆石です。これらは下痢などによる水分の喪失や栄養不良などが発症に関係するといわれていますが、はっきりとした原因はわかっていません。また、水分喪失との関係が考えられるものとしては、血栓性静脈炎にも注意が必要です。こちらも原因は明らかではありませんが、注意する必要があります。

一方、眼病変のうち強膜炎やブドウ膜炎については、ベーチェット病の合併症との鑑別が重要です。ベーチェット病の合併症として発生するブドウ膜炎は、発作を繰り返すことで重症化し、最悪の場合失明するリスクがありますが、IBDの合併症による眼病変は虹彩や毛様体に起こることが多く、眼底にまで炎症が及ぶことは稀です。

また、日本での発症率はさほど高くないものの、原発性硬化性胆管炎(PSC)には注意が必要です。PSCは潰瘍性大腸炎の患者さんに多く発生し、胆管に炎症や線維化が起こります。自覚症状はあまりなく、詳しい検査をしなければ発見が困難です。胆管がんや大腸がんの発症リスクとなります。早期発見のためには採血でALPやγ-GTPの値を定期的にチェックすることが大切になります。

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幅広い知識を持ち、オーダーメードの治療を心がける


これまで紹介したように、IBDには多種多様な腸管外合併症があり、原疾患の治療だけではなく、合併症に対しても適切な治療を行うことが大切です。また、前述の関節リウマチやベーチェット病に加え、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーングレン症候群などの膠原病もIBDに似た合併症を伴うことがあるため、それらの疾患と正確に鑑別することも重要になります。

また、慢性疾患であるIBDの治療は、長い期間に及び、その間、寛解と再燃を繰り返すことも多いため精神的ストレスを抱えている患者さんも少なくありません。今後は、IBDという病気を治療するだけでなく、もっと患者さんの精神的なケアを行い、少しでもストレスを取ってあげられるよう働きかけていく必要があると思います。

患者さんは合併症も含めIBDという病気を正しく理解することが大切


IBDの患者さんは、下痢や血便、腹痛などの消化器症状に対しては、非常に神経をつかっている人が少なくありません。しかし、消化器症状が現れていないときでも、今回紹介した腸管外合併症が発症することがあります。IBDを抱える皆さんには、腸管外合併症についても正しい知識をもち、注意をはらってほしいと思います。自身の病気の傾向や特徴を理解していただき、病気をコントロールしながら日常生活を送れるようにしていただければと思います。
私たち医師も一人ひとりの患者さんの状態を見極めながらオーダーメードの治療を心がけていきますので、皆さんも自分の状態を把握しながら病気と付き合ってください。消化器以外の体調の変化に対しても、無理をしたり我慢したりせず、気軽に主治医に相談していただければと思います。