公開:2021年9月28日
更新:2024年10月

icon

IBDの気になることば

IBDに関することばの解説をしています。

監修:東京大学大学院医学系研究科 臓器病態外科学講座 腫瘍外科学 准教授 野澤 宏彰 先生

公開:2021年9月28日
更新:2024年10月

監修:東京大学大学院医学系研究科 臓器病態外科学講座 腫瘍外科学
准教授 野澤 宏彰 先生

炎症性発癌

「大腸炎関連癌(CAC: colitis associated cancer)」について説明します。

「大腸炎関連癌(以下CAC)」とは、大腸に長く炎症が続いた結果、蓄積したダメージによって癌ができてしまう病態であると考えられています。
具体的には、潰瘍性大腸炎やクローン病を含む炎症性腸疾患では、炎症が長く続くと、粘膜細胞が傷ついたり再生したり、という状況が繰り返し起こることになります。
それに伴い、細胞の分裂が通常よりも多く繰り返されることとなり、遺伝子の突然変異のリスクが高くなります。こうして蓄積された遺伝子異常によって、細胞が癌になり得る前段階の病変(異形成)に移行しやすくなります。
その様な過程を経て、癌を抑えるp53などの遺伝子にも変異が起こり、結果として癌が起こりやすくなるのではないかと考えられています。
しかし、潰瘍性大腸炎の方すべてが癌になり易いわけではなく、「炎症がつよい」、「炎症の範囲が広い」、「炎症が長く続いている」という要因があるとリスクが高いということが分かっています。
そのため、しっかりと潰瘍性大腸炎やクローン病の治療を継続して炎症を抑えることによって、リスクを低減させることが重要です。また、CACが発見しにくい癌であること、発見されたときには既に進行したステージである傾向がみられることから、定期的な受診と検査が大切です。

参考図書
長沼 誠 「潰瘍性大腸炎におけるcolitis-associated cancer 診療の現状と今後の展望」日本消化器病学会雑誌 117:939―946 (2020)
野澤 宏彰ほか「炎症性腸疾患と癌化のメカニズム」
日本消化器病学会雑誌 110:374―378(2013)
Kishikawa, Junko, et al. "Results of a 36-year Surveillance Program for Ulcerative Colitis-associated Neoplasia in the Japanese Population." Digestive Endoscopy 30, no. 2 (2018): 236-244. https://doi.org/10.1111/den.12955.