公開:2021年10月18日

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エキスパートインタビュー

IBDの治療やケアについて専門医にお話を伺います。

モニタリング(定期検査)の重要性

IBD治療の進歩は著しく、適切な治療をすれば安定した日常生活を送れる人も増えてきました。しかし、根治することは難しく、長期間にわたってモニタリング(定期検査)を受けつつ、その都度適切な治療を行うことがIBD治療の基本となります。症状が安定していても定期的に検査を受けることがなぜ必要なのか、また検査の種類やその意義について、福岡大学消化器内科主任教授の平井 郁仁 先生にお話をうかがいました。

福岡大学 消化器内科

主任教授 平井 郁仁 先生

(取材日時:2020年10月30日 取材場所:ホテル日航福岡)

平井郁仁先生1

福岡大学 消化器内科

主任教授 平井 郁仁 先生

炎症の徴候もみつけるバイオマーカー

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IBDの病態を客観的に把握する上で大変重要な検査法のひとつに、血液や便などから調べられるバイオマーカーがあります。バイオマーカーは患者さんの身体的負担が少なく、近年では検査精度も上がっていることから、信頼性の高い検査として位置づけられています。

血液検査では、CRP、白血球数、血沈などで炎症の具合を調べるほか、貧血、栄養状態、肝機能や腎機能などを調べます。
このうち炎症の活動性を調べることができるCRPは、身体症状があらわれる前から数値が高くなるため、再燃・悪化の予兆を捉えることに役立ちます。ただし、CRPは腸管以外で炎症が起きていても高値になることがあります。
2020年には、炎症の活動性を調べる新たなバイオマーカーとしてLRG(ロイシンリッチα2グリコプロテイン)という物質を用いた検査が保険適用されました。まだ使用経験が浅く目標として確立されてはいませんが、潰瘍性大腸炎の炎症部分でLRGが産生されていることから、IBDに特異的なバイオマーカーとして今後が期待されています。

検便検査では、腸粘膜からの出血を調べる便潜血検査、便に含まれるカルプロテクチンという物質の濃度を調べる検査が行われます。カルプロテクチンはCRP同様に、症状が出る前から再燃・悪化の予兆を捉えることができる検査で、潰瘍や腸の傷から生じた白血球の残骸に対しても反応するため、より腸の炎症に特異的だといわれています。
しかし、カルプロテクチンは感染性腸炎や頭痛薬を服用している場合でも上昇してしまうことがあります。しかも、人によってベースとなる値が異なり、50.0mg/kg以下が基準とされていますが、200mg/kgで粘膜の状態が正常な人もいます。カルプロテクチンについては、患者さんごとの数値を継続的にみていくことが大切で、急に数値が上昇したタイミングが要注意となります。

通常の検便検査は、患者さんの負担が少なく、IBDの客観的評価方法として信頼性が高い反面、検査結果が出るまでに時間を要するというデメリットがあります。通常は病院で容器を渡したら、家で採便して次の診察で持ってきてもらいますが、その日には検査結果が出ない施設も多く、すぐに治療介入することができないのです。
そこで、患者さんの負担を減らすためにも便検体を郵送できる仕組みを作れないかと検討しています。当院には離島から通っている患者さんもいますし、医療側も継続的なモニタリングの方法を工夫していく必要があるでしょう。

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活動性の診断には欠かせない内視鏡検査
内視鏡検査

いかにバイオマーカーが高精度だとしても、バイオマーカーだけでIBDの診断をすることはできません。粘膜を直接見ることができる内視鏡検査で炎症の程度や範囲などを確認し、病気の活動性を評価して、治療方針を決めることが不可欠です。

基本となるのは大腸内視鏡検査です。以前よりかなり楽になったとはいえ、大量の下剤を飲む前処置を負担に感じる患者さんも少なくないため、バイオマーカーの結果に応じて実施するなど、できるだけ負担が少なくてすむようモニタリングを実施しています。

クローン病では小腸に病変があらわれることが多いのですが、小腸病変があってもCRPやカルプロテクチンなどのバイオマーカーが高値になりにくいという難しさがあります。しかも、小腸は5~6mもある長い臓器で、肛門から入れる大腸内視鏡だけでは観察することができません。
従来は大腸内視鏡と上部消化管内視鏡を組み合わせて行う方法や小腸造影検査しかありませんでした。

しかし、現在はカプセル内視鏡で小腸を観察することが可能となりました。カプセル内視鏡は3cmくらいのカプセルに入った超小型カメラを水とともに口から飲み込む検査方法で、体に装着したレコーダーで記録していきます。カプセルを飲み込んで1時間ほどすれば普通に食事をすることも可能で、3時間から最長12時間後にレコーダーを外したら検査は終わりです。

カプセル内視鏡検査を行えば小腸全域を撮影できる一方、小腸に狭窄がある場合などはうまく撮影できないことがあります。また、カプセルが移動しながら撮影をしているので、より詳しく見たいと思う箇所があってもその部分を能動的にフォーカスして見ることができません。
そのような中、新たな検査方法として登場したのがダブルバルーン内視鏡(BAE)です。内視鏡の先端についた風船と内視鏡の外側の風船とを交互に膨らませることで小腸の奥へと進み、観察することが可能になりました。内視鏡なので、医師が気になるところにフォーカスすることもできますし、その場で組織を採取する生検をすることも可能です。
また、クローン病の狭窄病変に対して、バルーンカテーテルを用いて拡張を行うことも可能です。

負担が少ない画像診断を行う施設も

CTやMRI、超音波などの画像診断をIBDのモニタリングとして行う施設もあります。CTエンテログラフィー、MRエンテログラフィーと呼ばれる画像検査は体外から撮影する方法で、腸管の肥厚や狭窄、腸管の外側の炎症などを確認することができます。しかし、大腸内視鏡検査と同じように下剤を飲む前処置が必要で、内視鏡ほど詳細な粘膜の状態や炎症の所見を観察することはできません。

腹部にプローブを当てるだけの超音波検査は、患者さんの負担はほとんどなく、大腸にできた大きな潰瘍や狭窄を観察することができます。しかし、超音波で小腸や大腸などの管腔臓器を見るのはかなり難しく、熟練した検査技師や医師の高度な検査技術が求められます。

IBDと上手く付き合っていくために
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症状が落ち着いているようにみえても再燃や増悪のリスクがある上に、罹患が長期間にわたるとがん化する恐れのあるIBDは、長期間にわたってモニタリングを継続していくことになります。
だからこそ、できるだけ患者さんの負担が少なくて済むよう、バイオマーカーをはじめとした検査方法の開発が進んでいます。

モニタリングは、そのときの患者さんの状態を知り、治療目標を共有するための場でもあります。限られた診療時間内では相談しにくいこともあるかもしれませんが、当院では診療前に困りごとを書き込んでもらう問診票を作成するなど患者さんの声を聞き、相談しやすくなる方法を模索しているところです。
さらに、就職で悩んでいるならソーシャルワーカーの力を借りる、薬に不安があるなら薬剤師さんの話をよく聞く、食事で困っているなら管理栄養士さんから栄養指導をしてもらうなど、多職種によるチーム医療が大切になります。
このようなモニタリングの意義を理解した上で、ともにIBD治療を進めていければと考えています。

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