Dr.コラム Doctors column

2016年2月

Vol.2 IBD 寛解導入療法 No.1
良好な状態に導くための最初の薬物療法

IBDの治療は、潰瘍性大腸炎にしろ、クローン病にしろ、最初の治療が重要であるといわれています。腸の炎症を抑え、よい状態を保つ「寛解」を導くための治療について、東京医科歯科大学消化器内科 教授 渡辺守先生にうかがいました。

基本は5-ASA製剤を「十分な量」「十分な期間」使う

東京医科歯科大学消化器内科
教授 渡辺 守先生

IBDの治療は、病気の重症度にかかわりなく薬物療法が中心になります。薬物療法の基本は、IBDの基礎薬である5-ASA製剤を、早期の段階から「十分な量」「十分な期間」使うことです。これが、症状のない状態に導く「寛解導入」に向けた最善の治療です。

薬の使用量や使用期間が不十分だと、薬が本来もっている力を思い通りに発揮させることができません。また、いったん病気が進行して腸の状態が悪くなってしまうと、そこからよい状態に引き上げるのは非常に難しいのが実情です。

5-ASA製剤を早期から十分な量、十分な期間きちんと使うことで、潰瘍性大腸炎の患者さんの50~80%の方に寛解の効果が得られます。直腸からS状結腸にかけての炎症が強い方には、5-ASA製剤の坐剤や、薬を直接大腸に注入する注腸療法を併用することもあります。5-ASA製剤は、寛解維持療法(寛解の状態を長く保つための治療)の薬としても有効です。5-ASA製剤の内服に加え、坐剤や注腸療法を行っても、4週間以内に効果が得られないときにステロイド薬を使います。

クローン病の場合は、5-ASA製剤のみで寛解導入できる方は潰瘍性大腸炎ほど多くありませんが、炎症を抑えるステロイド薬や、過剰な免疫反応を抑える免疫調節剤、比較的新しい薬であるバイオ医薬品を併用することによって、寛解導入を目指すことができます。

クローン病の場合は、腸の炎症の程度によっては5-ASA製剤の開始と同時にステロイド薬を使うこともあります。

腸の炎症が強い場合はステロイド薬も併せて使用

潰瘍性大腸炎でもクローン病でも、腸の炎症が強い方には、抗炎症作用のあるステロイド薬を5-ASA製剤と併せて使用します。

ステロイド薬の使用は、IBDの治療において、あくまでも一時的なものとして捉え、炎症が治まれば使用を中止します。おおよそ3カ月間を目安にして、徐々に量を減らして中止していきます。

クローン病では、骨粗鬆症の方やお子さんなど、ステロイド薬の使用を控えなければならない方には、成分栄養剤による栄養療法を行うこともあります。栄養療法を行っている期間は腸を休ませることができるので、寛解導入が期待できます。炎症が落ち着き、腸の状態がよくなったら普通の食事に戻します。

免疫調節剤やバイオ医薬品(生物学的製剤)を使うのはどんなとき?

患者さんのなかには、ステロイド薬の効果が得られなかったり、投与開始から3カ月が過ぎ、ステロイド薬を中止しようとすると、病状かが悪化してしまう方がいます。そのようなケースでは、免疫調節剤やバイオ医薬品の抗TNF-α抗体製剤をうまく使うことで、ステロイド薬をフリーにできます。
免疫調節剤には、再燃を抑えて寛解維持する効果も期待できます。

抗TNF-α抗体製剤は、腸の炎症のもとになっているTNF-αという物質のはたらきを抑える作用のある薬です。当院の場合、重症の患者さんが多く来院されますので、潰瘍性大腸炎の患者さんの15%程度、クローン病の患者さんの約50%が、抗TNF-α抗体製剤を使用しています。

以前は、「最後の砦」のように思われていた抗TNF-α抗体製剤ですが、最近は、病気があまり進行しないうちに使うことで、病気の悪化を抑え、腸をよい状態に保てることがわかってきたため、より早い段階から使用されるようになってきました。

抗TNF-α抗体製剤の効果は次の3つと考えられています。

かつてのIBD治療は、症状を抑えることが治療の主眼でしたが、2002年に抗TNF-α抗体製剤が登場し、クローン病の治療薬として使われるようになりました。粘膜治癒を目指せるようになったことで大きく進歩しました。2010年には潰瘍性大腸炎の治療にも使われるようになりました。

症状の改善にとどまらず粘膜治癒を目指す

「IBD治療の真の目標は、病気以前の
生活を取り戻していただくこと」と話す
渡辺先生

IBDの治療目標は、症状を改善することだと考えている方も多いと思いますが、それは間違いです。IBD治療の真の目標は、病気になる前の普通の生活を取り戻していただくことにほかなりません。

「普通の生活」のなかには、食生活も含まれます。食べたいものを食べ、やりたいことができる豊かな人生を送るという「治療目標」を、患者さんと医師が共有することが大切です。

診断された直後はまだ症状もあり大変だと思いますが、「治療目標」を意識して治療に取り組んでいただきたいと思います。とくに免疫調節剤や抗TNF-α抗体製剤の一部は、入院の必要はありませんが、症状が重いときには、学校や職場を休まなければなりません。

場合によっては、治療の最初に短期の入院をしてもらうこともあります。これはその方の病状や全身状態を把握するためにも必要ですが、患者さんがご自身の病気をしっかり理解して、薬物療法をしっかり続けることこそが、寛解導入、そして寛解維持へとつなげるということを認識してもらうためにも重要です。

また、IBD治療でもう1つ大切なことは、患者さんの治療参加です。次回は、患者さんがご自分の病気を理解し、積極的に治療に参加する意義をお伝えしたいと思います。