公開:2021年12月20日
更新:2024年11月

患者さんとご家族を支援するIBD教室

IBDのような慢性疾患では、病気の安定を維持するためにとくに症状がないときでも定期的に病院に通って治療を受けること、そして、患者さん自らが取り組む日常のケアが大切です。
IBD教室を通して、患者さんの生活全般をサポートしている富山県立中央病院消化器内科の松田耕一郎先生に、IBD教室によって患者さんはどのようなメリットを受け取るのかをうかがいました。

松田 耕一郎 先生

富山県立中央病院 消化器内科
部長 松田 耕一郎 先生
(取材日時:2021年1月26日 取材場所:富山県立中央病院[リモートによる取材])

松田 耕一郎 先生
患者さんとその家族に病気を理解してもらうIBD教室

IBDは、長期にわたって付き合っていかなくてはならない病気であるため、患者さんに自分の病気を正しく知ってもらうことが必要です。また、その情報は常に最新のものへとアップデートしてもらうことも大切だと思います。そのような点から、IBD教室やIBDセミナーを開催し、情報を発信している病院も少なくありません。
IBD教室を運営するメンバーは消化器内科の医師、看護師、薬剤師、管理栄養士など患者さんと接する機会がある職種が中心かと思われます。

IBD教室の講演テーマですが、消化器内科の医師からは薬を中心にした治療についてお話しすることが多いです。IBDの治療は薬物療法が中心になりますから、患者さんにとって身近で関心が高いテーマになります。自分が使っている薬についてしっかりと理解することで、服薬コンプライアンスの向上が目指せます。新しい薬について知りたいという患者さんも多いことから、新しく出た薬の特徴などを説明することもあります。
看護師からの話は、日常生活の注意点が中心になります。就学中の患者さんに対しては学校生活に関するアドバイスなどをお話しすることもあります。
管理栄養士からは食事に関する話だけでなく、実際にその場で料理を作ってみせる企画を行うこともあり、患者さんには好評のようです。そのためにメニューを考えて、何度も試作を繰り返すなど準備に時間がかかりますが、言葉で伝えるだけよりも患者さんたちにはわかりやすいと思います。

IBD教室を行っている多くの病院では、このような情報を患者さんへ提供することで、療養の質を上げてもらい、長期の寛解維持を目指しているのではないでしょうか。

コミュニケーションの場でもあるIBD教室

IBD教室では医師や看護師からの話のほかに、情報交換会など双方向性の場を設けているところもあります。
患者さんと医療スタッフが率直に語り合える場は、通常の診療ではなかなか作ることができません。このような機会を通じて、日ごろ感じていることや疑問に思っていることを医師や看護師に話してもらえたらと思います。「ささいなことだから」「自分だけかも」と悩んでいたことも、話してみることで解決する場合があります。
また、医療スタッフにとっても患者さんとの会話から学ぶことはたくさんあります。
このような時間を共有することで、医療スタッフに親しみを感じてくれると患者さんは普段から話しやすくなるようです。

ほかにも、患者さん同士が語り合うことで、広い意味で療養の質があがると考えています。実際に患者さん同士が会う機会は少ないので、IBD教室などがよい出会いの場にもなると思います。

IBD教室に参加される方は、診断されてすぐの方もいれば長くこの病気とつきあってきた方もいます。発症後間もない患者さんでは、「潰瘍性大腸炎とはどんな病気なのか」「クローン病は将来にどう影響するのか」などと強い不安を抱いている方も少なくありません。
そんなときに同じ病気の方とお話しされたり、IBDのお子さんを持つ方同士が関わりを築いたりすることで、不安が和らいだと実感される方も多いようです。私たち医療従事者では伝えにくい実感の部分を、先輩の患者さんの体験から知ることができます。

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2020年からは新型コロナウイルス感染症の影響で、人に集まってもらう催しは難しくなりました。IBD教室も今後はリモート機能などを使って開催することが増えるのではないでしょうか。新型コロナウイルスが終息した後も、リモートで開催するメリット、デメリットを考えてさまざまな取り組みがされていくことでしょう。オンラインならば参加できるという人もいるので、参加者の幅が広がると思います。

IBDという病気は長期戦。しっかり治療を続けていたのに再燃をしてしまった、ということもときにはあります。そんなとき患者さんは落ち込むかもしれません。しかし、あきらめずに治療を継続していくことが大切です。そうすることで何か道が開けてくるはずです。