Dr.コラム Doctors column

2020年7月

Vol.15 子どものIBD(前)
診断・治療編

IBDの治療について 粘膜治癒が治療の目標

新井勝大先生

基本的には、潰瘍性大腸炎もクローン病も治療薬は大人と同様のものを使います。

治療にあたっては、その後の人生を見据え、子どもたちの腸管をできるだけきれいな状態に保つという観点(粘膜治癒)がより重要になります。「粘膜治癒」の達成が治療の目標となります。そのためには、子どもだから薬をあまり使わないというのではなく、しっかり薬を使って寛解導入し、粘膜治癒を達成し、その状態を維持するのが現在の治療の基本になっています。

潰瘍性大腸炎の薬による治療 アミノサリチル酸製剤、ステロイド剤を使用する

潰瘍性大腸炎の治療で、最初に使われるのはアミノサリチル酸製剤という昔から使われている炎症を抑える薬です。それで不十分な場合は一時的にステロイド剤を使います。ステロイド剤は、強力に炎症を鎮める作用があり、血便や下痢といった症状も短期間に治まりますが、使うにあたっては注意が必要です。

ステロイド剤には顔が丸くなる満月様顔貌(まんげつようがんぼう)や多毛といった副作用がありますが、これらは使用をやめれば元に戻ります。問題はその使用が長期に及んだ場合です。骨が弱くなり圧迫骨折をしたり、白内障になったりと、その子どもの人生を大きく左右するような症状が現れる場合があります。また、成長期の子どもにとっては成長障害も深刻な問題です。

一方で潰瘍性大腸炎の症状をずるずると引きずるのもよくありません。ステロイド剤を用いるときはしっかり使って、早めに止めるというスタンスが肝心です。それは成人のとき以上に意識しないといけないでしょう。早めに免疫調節薬に切り替え、それでも症状が改善しないときはバイオ医薬品の抗TNF-α抗体製剤等を検討します。

クローン病の栄養療法 食事を完全にストップする完全経腸栄養療法

クローン病によって腹痛、下痢、発熱など、激しい症状が出ているときに用いる治療法に「完全経腸栄養療法」があります。食事を完全にストップして、1日に必要なカロリーを栄養剤のみで取る方法です。これを最低2週間続けます。これによってステロイド剤を使ったときと同じくらい病態がよくなるということがわかっています。ここは潰瘍性大腸炎の治療と異なります。

完全経腸栄養療法はステロイド剤と変わらない寛解導入効果が得られるだけではなく、粘膜治癒に関してはステロイド剤よりも優れているともいわれています。ステロイド剤を使わずに寛解導入にもち込むことができるという点で、完全経腸栄養療法には非常に大きな意味があります。

栄養療法で症状がよくなったという体験をすることで、栄養療法の効果を子ども自身がしっかりと理解します。寛解後、症状が少し悪くなり始めたときに、自分で食事をストップし、経腸栄養剤に切り替えることができるようになります。ステロイド剤など薬を使うことなく、症状を落ち着かせることが可能です。このような面からも、最初に完全経腸栄養療法を行うことは重要だと考えています。

また、子どもは予防接種などで生ワクチンを打たなければならないことがあります。はしか、風疹、おたふく風邪、水ぼうそう、さらに赤ちゃんであればBCGやロタウイルスなどがあります。これらのワクチンは免疫を抑える治療をしているときには使えませんが、はしかや水ぼうそうなどの感染症は、免疫を抑える治療を長きにわたって使用していく子どもたちが一番かかってほしくない病気でもあります。実際、こうした病気にかかって命を落とすケースもないわけではありません。完全経腸栄養療法などを用いて、免疫を抑える薬を始める前に生ワクチンを接種して、3週間待てば、免疫を抑える薬を使うことができます。既に免疫を抑える薬が使われている場合には、中断後3カ月程度すれば安全に生ワクチンが投与できるとされていますが、そこには再燃のリスクを伴うこともあり、医師との相談が必要となります。

潰瘍性大腸炎とクローン病の手術、
子どものIBDの治療を選択するときの留意点をうかがいます。>