Dr.コラム Doctors column

2020年7月

Vol.15 子どものIBD(前)
診断・治療編

年々IBDの患者さんは増えていますが、この病気を発症するのは大人だけではありません。子どものときに発症する人は少なくなく、おなかの不調を訴えるお子さんを病院へ連れていき検査をしたところ、潰瘍性大腸炎やクローン病だったというケースはめずらしくありません。成長過程にある子どものIBDに対しては大人とは違う対応が求められます。どのような治療が推奨されるのか、どのような点に注意が必要なのか、国立成育医療研究センターの小児炎症性腸疾患(IBD)センターでセンター長を務める新井勝大先生に話をうかがいました。

(取材日時:2019年8月29日 取材場所:国立成育医療研究センター)

国立成育医療研究センター消化器科 診療部長 児炎症性腸疾患センター センター長 新井勝大先生

国立成育医療研究センター消化器科 診療部長
小児炎症性腸疾患センター センター長
新井勝大先生

小児IBDの特徴 成長と発達を念頭に治療を行う

IBDはもともと、発症年齢が比較的若く、全体の2割くらいが18歳までの小児期に発症するといわれています。小児期に発症した人のほうが、病変範囲、特に病気にかかっている腸の範囲が広く、症状が重いケースが多いといわれています。治療は工夫をしながら、しっかり取り組まなければなりません。しかも、IBDは慢性疾患で、長く付き合う病気ですから、病気の治療とともに子どもたちの心身の健康をケアする必要があります。

それに加え、小児期特有の問題として、成長と発達を頭に置いておくことが大切です。この時期は背を伸ばさなくてはいけないし、体重も増やさなければならない。また社会的にも人間としても発達しなくてはなりません。人生において非常な重要な時期にあることを忘れてはいけないのです。

IBDが長くつきあっていかなければならない病気である以上、子どもたち自身がIBDとはどんな病気なのかを理解することが望ましいのです。もちろん、この時期は年齢によって理解力が大きく異なりますので、治療する側も、臨機応変に子ども一人ひとりに合った対応を心がけています。

小学校に上がる前の乳幼児期に発症するIBDを超早期発症型炎症性腸疾患(VEO-IBD)というのですが、その多くは、通常の潰瘍性大腸炎やクローン病とは異なることがわかってきました。その一部は原発性免疫不全症という免疫機能の異常によって腸炎が引き起こされるものになります。実はこのようなタイプがあることは以前から知られていたのですが、これまではなかなか診断にいたることができませんでした。

原発性免疫不全症と診断された子どもに対しては、骨髄移植が選択肢となることもあります。骨髄移植によって症状が大きく改善し、治癒するケースも経験しています。このように大人とは違う特有の病態もあるのが、小児のIBDの大きな特徴といえるかと思います。

IBDが疑われる症状 潰瘍性大腸炎は下痢と血便、クローンは成長障害からわかることも

新井勝大先生

IBDを疑う症状で多いのは下痢、血便、腹痛です。潰瘍性大腸炎の場合は下痢と血便が最初の主要な症状で、わかりやすいといえます。おしりに近いところに炎症があるので血便が出やすく、トイレの回数も増えます。こうした症状が続けば、おかしいと感じ、受診するので、潰瘍性大腸炎は比較的早く見つかります。

一方、クローン病は症状が出ない、出ていても気づかないことが多く、熱はあるけれどもおなかの症状がなくて、不明熱と評価されているケースもあります。おしりから遠い場所に病変があると、出血していても気づきにくいということがあります。クローン病は、口から肛門までの消化管のあらゆる場所に炎症が起き得ますが、場所や重症度によって症状が異なるので、判断が難しいのです。小児の特異的な症状としては、身長がなかなか伸びないなど、成長障害をきっかけに、クローン病がわかることもあります。
微熱があったり、たまにおなかが痛くなったりする場合では「気持ちの問題でしょう」とスル―されてしまうケースも少なくありません。子どものクローン病はわかりにくいという認識を医療者側ももっておくべきなのです。

IBDの診断には内視鏡検査が不可欠です。胃カメラ、大腸カメラ、そして小腸はカプセル内視鏡やMREによって検査をすることもあります。しかし、子どもの内視鏡検査を行っている医療機関はそれほど多くありません。中高生なら大人を対象とした医師が内視鏡を行うことが多いのですが、小学生や小学校に上がる前の子どもに対して内視鏡検査を行う医療機関は少ないのが現状です。小児のIBDに精通し、小児の内視鏡検査を行える医師が少ないことが、この病気の発見を遅らせる原因にもなっており、そのあたりは変えていく必要があると感じています。

IBDが増えている背景 遺伝的要因に環境因子が相互的に作用している

日本のIBDの患者数は年々増えています。とくに潰瘍性大腸炎の患者数はアメリカに次いで世界第2位と非常に多く、クローン病の患者数をかなり上回っています。お隣りの韓国では潰瘍性大腸炎よりもクローン病のほうが多いのですが、その理由ははっきりしていません。日本人と韓国人の腸内細菌の違いなどが影響しているのではないかと予想され、非常に興味があるところです。ただ、近年は日本でも潰瘍性大腸炎とクローン病の患者数の差が徐々に縮まっているようです。

遺伝的素因もIBDの発症に関係しています。小さい子どものIBDでは、ひとつの遺伝子の異常が病気のすべてを支配していることがあります。一方、大人の場合は多因子遺伝といわれていて、疾患に関連していると思われる遺伝子が200以上見つかっています。それらの遺伝子に変異がある人のほうがIBDを発症しやすいことがわかっています。

こうした遺伝的素因に環境因子が相互作用するかたちでIBDの発症につながっています。また、食生活の影響を受ける腸内細菌や、さまざまな外環境も関係しているといわれています。たとえば、抗生物質の使用が増えたこともIBD発症に影響している可能性があるといわれています。また、母乳で育った人のほうが人工乳で育った人より発症が少ないともいわれています。遺伝的素因をもとに、食生活をはじめとする環境因子の影響で起こった免疫の異常がIBDという位置づけになるのではないかと考えられています。

潰瘍性大腸炎の薬による治療、クローン病の栄養療法を中心にお話をうかがいます。>