Dr.コラム Doctors column

2018年11月

Vol.14 女性のIBDとどう向き合うか
思春期、就職、結婚、出産……

人生にはさまざまなライフイベントがあります。とくに女性の場合、月経を迎える、受験、就職、結婚、妊娠、出産、子育てと、いくつものイベントを迎える中で、社会環境の変化とともに自身のからだの変化にも向き合っていかなくてはなりません。IBDの患者さんは節目節目で、どのように病気と向き合っていけばよいのでしょうか。岡山大学病院の炎症性腸疾患センターで副センター長を務める平岡佐規子先生に話をうかがいました。

IBDの発症と月経の関係

岡山大学病院 炎症性腸疾患センター 平岡 佐規子先生

岡山大学病院
炎症性腸疾患センター
副センター長
平岡 佐規子先生

IBDの発症に関しては、性別によって大きく差が出ることはあまりないと思います。潰瘍性大腸炎でしたら血便や下痢、クローン病でしたら腹痛、発熱、下痢といった症状が出やすいのですが、それは男性であっても女性であっても同じです。

月経とIBDの発症の時期ですが、月経が始まる前に発症するケースは少ないですが、まったくないわけではありません。日本人の初潮の平均年齢は12歳前後ですが、クローン病の女性患者さんに確認すると、それより遅い場合があります。それは、初潮より前にクローン病を発症し、貧血や骨盤腸管の炎症などのために月経の開始が遅れた可能性も考えられます。一方、潰瘍性大腸炎の場合は、発症が20代から30代が多いので、初潮年齢にはほとんど関係がありません。

IBDが月経に与える影響で考えられるのは、月経不順でしょう。病気が活動していると貧血になりやすく、月経不順を引き起こします。また、ステロイド剤を服用していると、月経不順になりやすいこともわかっています。そうした時期には、「いずれおなかの調子がよくなり、服用する薬が減ってくれば、正常な状態に戻る」と説明し、患者さんが不安をため込まないようにしています。しかし、病状が安定していても、長期に月経がこない場合は、ちょっと心配です。それは、無月経が続くことが骨粗しょう症や子宮内膜がんのリスクになることがあるためで、その場合はしばらく基礎体温をつけてもらい、婦人科を受診することをすすめています。

月経痛も個人差がありますが、IBDの患者さんのなかには、日常生活に支障がでるくらい痛みがつらいのに、痛み止め(鎮痛薬)を処方してもらえない方や自ら内服を我慢している方がいます。痛み止めで腸炎が悪化した経過がある方はともかく、そうでなければ、私は、服用してもらったほうがいいと思っています。また、痛みをとことん我慢してから痛み止めを内服し、薬が効くまでに時間がかかって辛いということを繰り返している方には、前兆のタイミングで服用するようにアドバイスしています。月経痛で鎮痛剤を内服するのは通常1日か2日間程度で、長期間にならないのが普通です。月経期間中ずっと、痛み止めが必要なほどの月経痛がある場合は、子宮内膜症などの可能性もありますから、婦人科の先生に相談したほうがいいでしょう。

内視鏡検査、思春期の女性患者さんへの対応

平岡佐規子先生

「大腸内視鏡検査では患者
 さんの羞恥心やつらさへの
 配慮が必要です」

IBDの診療には、大腸内視鏡検査がつきものです。女性の患者さんが初めて大腸内視鏡検査を受ける場合は、女性医師を希望されることが多く、なるべく希望に沿うようにしています。通常は鎮静剤なしで、内視鏡画面を見てもらいながら、お話をしている間に検査をすませます。しかし、過度に不安がったり恥ずかしがったりしている場合は、鎮静剤を投与してから行うようにしています。もっとも注意しなければならないのは、検査時に感じた羞恥心、つらさが、トラウマのようになってしまうことです。IBDの患者さんは、その後も定期的に内視鏡検査を受けなければなりません。だから、最初の検査で悪い印象を与えたくないのです。

また、大腸内視鏡検査の場合では、同性の医師が望ましいかもしれませんが、病院の体制によってはその通りにできないこともあるので、そこは臨機応変に構えるようにします。必要以上に性別にこだわるのではなく、患者さんの気持ちに配慮して、どうすれば嫌な思いを残さずに検査ができるか、場面場面で考えていくことになります。

就職に向けての対応、そして結婚

IBDと就職 就活

就職活動中の患者さんが悩むことの一つにIBDであることを会社側に伝えるべきかどうかということがあります。医療者側にとっても悩ましい問題です。昔は、「伝えなければダメ」と、患者さんには話していました。
病気について黙ったまま就職した場合、症状が悪化しても、休みを取りづらいということが考えられます。また、無理をした結果、さらに悪くなってしまうということも考えられるのです。このような悪循環におちいることを恐れていたのです。
しかし、最近は必ずしも会社に病気のことを告げなくてもよいのではないかという考えに傾いています。

企業は病気などを理由に雇用者の差別はしないといっていますが、就職の面接で病気のことを明かしたために、不利になっていると思われるケースが、まだあるように思います。患者さんの病状が落ち着いていて、会社の有給・休日を利用して通院が可能な場合は、患者さん本人に判断を任せてもよいのではと思うようになったのです。

もちろん、私としては今でも、会社に病気のことを伝えた上で就職して、仕事に臨むのがベストだと思っています。この患者さんはここまで仕事ができる、また、2カ月に1回の通院が必要だということを会社側に理解してもらうよう、診断書を作成することもあります。しかし、まだ理解していただけていないんだなと痛感することもあります。

結婚に関しても、同様な事象があります。本人同士はともかく、相手の両親にどう理解してもらうかに気をもむ患者さんはまだ多いです。病気の理解が得られにくい場合は「お相手やご家族を病院に連れてきてくれたら説明しますよ」と患者さんにいっています。それは、IBDは遺伝病ではないこと、病気の安定のために使っている薬で先天的な異常が増えるわけではないなど、伝えたいことがあるからです。

最近はIBDに関する情報も増え、世間一般の方たちの病気への理解は徐々に広がりつつあります。病気に対するネガティブな印象も薄れていっているようにも感じるのですが、もっと理解を深めていただけるように私もがんばりたいと思います。

妊娠、出産へのステップ

IBDと妊娠 IBDと出産

寛解期(症状が落ち着いている状態)であれば、妊娠も出産も可能です。ただし、妊娠を考えるときは、まず主治医に相談してほしいと思います。IBDの治療薬には、妊娠後も継続できるものが多いのですが、なかには変更・中止すべき薬があるかもしれませんので、主治医としっかり今後の治療計画について話し合ってください。

私の場合は、女性の患者さんに対して、結婚する前から、この薬は妊娠しても服用することができるなど、その人が使用している薬の情報を伝えるようにしています。それは、IBDの薬を飲んでいることで、生まれてくる子どもに影響が出るのではないかと心配して、妊娠を希望しない患者さんがいるからです。
また、IBDは遺伝病ではないので、自分と同じ病気になるのではと、過度に心配する必要はないということも伝えています。

ところが、妊娠がわかると、自己判断で薬を中断してしまう患者さんがいます。これだけは絶対にやめてほしいと思っています。自己判断で薬をやめたことによって症状が再燃してしまうと、胎児への影響も懸念されることになるからです。

妊娠中に、もしも再燃してしまったら、症状を安定させるための治療を行うことになります。基本的には、妊娠していないときとほぼ同様の手順を踏みます。それまでステロイド薬が効かなかったという患者さんは別として、まずはステロイド薬を使い、以降、通常のステップアップをしていきます。

さて、出産ですが、クローン病で肛門病変があったり、手術歴がある場合は帝王切開になることがあります。潰瘍性大腸炎でも、大腸の全摘手術を受けている患者さんのなかには、帝王切開が望ましいケースもあります。

出産後は普通に母乳が出るようでしたら、授乳を勧めています。授乳中に薬を服用すると、母乳に影響が出るのではと不安に思って、服用をやめるお母さんがいます。自分の判断で服用を中止せず、主治医の先生に相談しましょう。
出産後に注意しなければならないのは、赤ちゃんの世話などで、睡眠不足になりがちなことです。ホルモンバランスもどうしても崩れやすい時期ですし、生活のリズムが崩れると、再燃リスクが高まることになります。
何もかも自分一人で抱えこまず、御主人と協力をし、場合によっては双方の御両親にも助けを借りるようにしてください。育児だけではありませんが、頑張りすぎないことが肝心です。

深刻に考えすぎないこと

妊娠・出産で最大の関門は、妊娠を決断することではないかと私は考えています。「自分は子ども産めるのだろうか」と、不安で迷われている患者さんが少なくないのです。でも、「産むが易し」といいますか、実際に妊娠して出産してみれば、ほとんどの場合、そうした心配は杞憂だったことがわかります。もちろん、病状により妊娠をお勧めしにくいタイミングはあります。とにかく、一人で悩みを抱え込まないで、まずは主治医に相談してみてください。

それは、妊娠や出産だけではありません。普段の生活でも同様です。潰瘍性大腸炎もクローン病も病気ではあるのですが、ちゃんとコントロールすれば、同じ年代の方たちと同じような生活を送ることができます。

私がお伝えしたいのは、引っ込み思案になる必要はないということです。患者さんたちにはいろいろとチャレンジしてほしい。そのためには、医療者側もできるだけのサポートをしていきたいと考えています。からだのメンテナンスだけでなく、日常のことも気軽に医療スタッフに話して、質の高い生活を送れるようにしてください。

IBD 学校生活での対応

学校生活については、非常にデリケートな問題を含んでいます。これは女性に限りませんが、就学中のIBDの患者さん、その保護者の方に知っておいていただきたいことを平岡先生にうかがいました。

IBDと学校 IBDと学校生活

患者さんはおなかのこと、特に下痢などの症状については、友だちにも知られたくないという思いがあります。学校で下痢症状のためトイレに行くのを知られたくないから学校に行きたくなくなってしまうお子さんもいます。そうしたストレスが重なると、不登校になったり、また病院の通院からも遠のいてしまうこともあります。単に腸の問題ではなく、心の問題も含んでるのです。

学校生活において、トイレに行く(特にお通じ)ことを他人に知られるのは恥ずかしいと考える人は少なくありません。IBDを抱えている生徒たちでは、なおさらです。授業中にトイレに行くのが恥ずかしいというだけではありません。むしろ、休み時間に行くほうが苦痛だというケースが多いようです。他の同級生と同じ時間帯にトイレを使って、音を聞かれるのがとても嫌なのです。IBDの患者さんはどうしてもガスが溜まりやすいので、排せつ時に音が出てしまう。そうなると、どのタイミングでトイレに行けばいいのかということばかり考えて、学校に行きたくないという気持ちになってしまうことがあるのです。

やはり、担任の先生をはじめ、学校側にいろいろ対応してもらうことが大事になってきます。腸炎の症状が悪いときは、授業中でもトイレに行きやすいように、教室の席は後ろの出入り口の近くにしてもらう、可能な場合は職員用のトイレがあれば、それを使わせてもらうなど、細やかな配慮をお願いするようにします。

病気のことを同級生に伝えるべきかどうかですが、これはケースバイケースでしょう。仲のよい同級生、理解してくれそうな同級生には病気のことを伝えておくほうがよいかと思います。

学校生活では、出席日数や単位に関しても問題になります。入院が長引いたり、度重なったりすると出席日数が足りなくなるというケースも出てきます。高校ぐらいまでは同級生と一緒に卒業させてあげたい、できるだけ留年は避けさせてあげたいと思います。出席日数が気にかかる場合は、保護者の方々はわれわれ医療側や学校側と綿密に話をしておくべきでしょう。症状が落ち着いてきたら、短時間だけ外出し授業に参加する,病院で課題を行うといった対策が可能な場合もあります。
中学生まででしたら、病院によっては、小児科の病棟内に院内学級を設けているところもあるので、そうしたものを利用することも検討されます。

平岡 佐規子(ひらおか・さきこ)先生ご経歴


倉敷市出身

【学歴・職歴】

1994年 3月
岡山大学医学部医学科 卒業
1994年 5月
岡山大学第一内科入局
1994年10月
香川県立中央病院
1996年10月
国立療養所津山病院
1997年12月
津山中央病院
2000年 2月
岡山大学第一内科 帰局
2010年11月
岡山大学病院 消化器内科 助教
2016年 9月
炎症性腸疾患センター 副センター長併任
2017年10月
岡山大学病院 消化器内科 講師
2018年10月
岡山大学病院 炎症性腸疾患センター 准教授
現在に至る

【学  位】

2004年
医学博士学位取得(岡山大学)

【研究歴】

  • 2001年-2008年は消化管腫瘍疾患(食道、大腸)のトランスレーショナルリサーチ
  • 2009年以降は炎症性腸疾患のトランスレーショナルリサーチと臨床研究

【所属学会など】

  • 日本内科学会 認定医・総合内科専門医、中国支部評議員
  • 日本消化器病学会 専門医、指導医、中国支部評議員、学会評議員
  • 日本消化器内視鏡学会 専門医、指導医、中国支部評議員、学会評議員
  • 日本炎症性腸疾患学会(JSIBD)
  • 日本大腸肛門病学会
  • 日本消化管学会
  • 日本癌学会
  • Asian Organization for Crohn's and Colitis(AOCC)
  • European Crohn's and Colitis Organisation(ECCO)
  • 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(研究協力者)