Dr.コラム Doctors column

2018年8月

Vol.13 IBD治療~手術に踏み切るタイミングと注意点

バイオ医薬品の登場などもあり、IBDの薬物療法は以前に比べ、めざましい進歩を遂げています。しかし、それでもさまざまな合併症が現れるのがこの病気の特徴です。症状によっては、手術に踏み切らなければならないケースも多々あります。潰瘍性大腸炎、クローン病それぞれの治療において、どのような手術が行われているのか、IBD治療の最前線にいらっしゃる兵庫医科大学炎症性腸疾患外科主任教授の池内浩基先生に話をうかがいました。

潰瘍性大腸炎の手術の目的

兵庫医科大学 炎症性腸疾患講座 外科部門 主任教授 池内浩基先生

兵庫医科大学
炎症性腸疾患講座
外科部門
主任教授 池内浩基先生

潰瘍性大腸炎の手術の目的は二つあります。一つはQOLの向上、もう一つは救命です。QOLの向上のための手術は、たびたび再燃し、入退院を繰り返す場合。あるいは、内科的治療が有効でも、長い期間、寛解を維持できない場合です。

一方、救命のための手術というのは、手術を行わなければ生命に危険が及ぶような重症・劇症である場合。あるいは、がんを合併した場合です。

近年、潰瘍性大腸炎の合併症として、がんを合併するケースが増えています。その背景には、長期罹患例が多くなってきていることが挙げられます。潰瘍性大腸炎を発症してから10年を超えた患者さんでは、がんの合併も多くなってくるのです。がんを放置していては、命にかかわる状態にもなりますので、速やかに手術を行うことになります。

潰瘍性大腸炎の手術を受けるメリット・デメリット

池内浩基先生

「狭窄などがみられた場合、あまり我
 慢しすぎないで手術に踏み切ったほう
 が、QOLが保たれます」

手術を受けることで、潰瘍性大腸炎の患者さんの多くは、再燃がなくなり安定した状態を維持できるようになります。その結果、入院することもなくなり、学業や仕事が続けられます。これが一番のメリットといえるでしょう。

一方、デメリットとしては、なかには永久人工肛門が必要になる方もいらっしゃるということです。
一般的に潰瘍性大腸炎では、手術を2回に分けて行い、1回目の手術の際に一時的に人工肛門をつくることもありますが、状態が落ち着けば、2回目の手術のときに人工肛門を閉鎖します。
多くの方は手術後もこれまでどおりの排便機能が保たれますので、永久的に人工肛門となる方は少数です。

また、手術後、排便回数に関して悩まれる人もいます。手術後は、排便回数が増えます。それをすぐ解決するのは難しいのですが、食事をお米中心の和食にするなどで、排便の回数は少しずつ減ってきます。
潰瘍性大腸炎の場合、術後の生活は多くの症例で安定します。一方、大腸摘出後に小腸の末端で便をためるための袋(J型回腸嚢)をつくるのですが、ときに、その中で炎症が起きることがあります。回腸嚢炎と呼ばれるもので、回腸嚢炎になるとガスが多くでたり、排便回数が増えたりします。そうした症状がみられた場合は受診してください。抗菌剤等の薬によってほとんどの症例はよくなります。

手術を行わないことのメリット・デメリットについてですが、命にかかわる症状の方には手術を行わないという選択肢はありません。また、入退院を繰り返していてQOLが低下しているような症例でも、手術を行わないメリットは少ないと思います。というのは、手術をしないことで、将来的にがん化の危険性が高まるからです。

潰瘍性大腸炎の手術のタイミングと術式

緊急性が高い重症・劇症例は別として、QOLが著しく低下している症例に対して行う待機手術の場合、最終的に手術を決めるのは患者さん自身となります。このまま入退院を繰り返すと、仕事を続けられなくなるとか、進級ができないなどのさまざまな事情を考慮しながら判断します。

潰瘍性大腸炎の手術は、基本的に大腸をすべてとる全摘術になります。大腸の一部を残すことで、再びそこに病変が生じるケースが少なくないからです。大腸を全部とってしまっても大丈夫なのかと心配される方もいらっしゃいますが、それは問題ありません。大腸は水分を吸収する以外、それほど役割を担っているわけではなく、大腸をすべて摘出しても、普通に生活するためにはあまり支障がありません。

回腸嚢肛門吻合術

回腸嚢肛門吻合術

肛門近くのお尻を締めるための括約筋を残し、
大腸を肛門ぎりぎりのところからすべて取り除き、
回腸でつくったJ型の袋と肛門をつなぐ。


手術の術式としては開腹手術か腹腔鏡下手術かの選択になりますが、私が勤める兵庫医科大学では、おもには開腹手術で行っています。以前のように大きく開腹する必要はなく手術にかかる時間も開腹のほうが早いからです。それと、大腸を摘出する際には、小腸で直腸の代わりとなるJ型回腸嚢(便を貯める袋)をつくるのですが、腹腔鏡下手術ですと、とくに肥満体型の患者さんでは、それが肛門まで届くかの見きわめが難しいからです。

兵庫医科大学病院では、おなか側と肛門側2方向からの手術を採用しています。4人の外科医がおなか側と肛門側に分かれ、同時進行で手術を行います。これなら、通常腹腔鏡手術では7~8時間かかる手術が約半分の時間で終わります。

和食

術後の食生活の注意点としては、高脂肪食は下痢を悪化させる危険があるため、お米を中心とした和食をとることがベターです。とはいえ、実はこれを食べたらいけないというものはないのです。ただ、繊維質が多い食材は、大量に食べると腸内で詰まることがあるので、注意が必要です。


クローン病の手術適応

クローン病の手術適応としては、腸が狭くなる狭窄、腸に孔があく穿孔、腸の外側などに膿がたまる膿瘍、腸管と腸管がくっつきトンネル状に孔(穴)ができるろう孔のほか、がん、出血といった合併症が起こったときです。穿孔や大出血が起きた場合は、緊急手術の適応となります。

狭窄とろう孔


手術適応でもっとも多いのが狭窄です。小腸や大腸の腸管の内腔が狭くなってしまう状態です。狭窄が進むと、腸閉塞を起こすことがあります。そのような場合は鼻から小腸までチューブを通し、減圧する腸閉塞の治療を行ってから、手術を行うことになります。

病変が大腸に限局する潰瘍性大腸炎と違い、クローン病の病変は消化管のどこにでも生じるので、再手術率は非常に高くなります。潰瘍性大腸炎の場合は病変がない部分も含め大腸をすべてとってしまうわけですが、クローン病の場合はできるだけとらないのが基本です。
病変がないところまで切除してしまうと、さまざまな機能を損なうことになってしまうからです。小腸をとりすぎてしまうと、短腸症候群を引き起こしてしまい、栄養や水分の十分な吸収ができなくなります。大腸をとっても小腸がその代わりを務めてくれますが、小腸の代わりとなるような臓器はありません。したがって、クローン病の手術では、切除範囲を最小限に抑えるというのが基本になります。

がんの合併はクローン病でも潰瘍性大腸炎と同様、増えています。とくに日本人の場合、直腸・肛門病変からがん化するケースが多いという特徴があります。欧米ではそのような例は少ないのですが、なぜ日本でそのような傾向がみられるのかはわかっていません。

クローン病の手術の方法

狭窄形成術

狭窄形成術

病変部位を切除せずに、狭窄した部位を広げる手術で、
病変は残存するが、通過性は改善する

狭窄の場合、連続している病変は切除しますが、クローン病の病変は必ずしも連続しているわけではありません。クローン病の病変の分布は非連続のことが多く、病変と病変の間には正常な腸管があります(スキップリージョン)。クローン病では可能な限り切除する腸管を少なくするのが基本ですから、こうした場合は腸管を切除せずに狭い部分を広げる狭窄形成術という術式がとられます。

膿瘍の場合は、ドレナージ(溜まった膿や浸出液を留置した管を通して体外に排出する処置)ができるようでしたら、ドレナージをしてから手術になります。ろう孔に対しては、原因病変の切除が基本です。

肛門病変に関しては、シートン法という方法がとられます。肛門の内側から皮膚につながるトンネルに管またはゴムを通して輪をつくり、膿を出しやすくするのです。この治療に併せて、抗TNF-α抗体製剤を使うこともあります。多くの患者さんは、病変が早く改善します。

クローン病の手術後


直腸病変や肛門病変の症状が進んだ患者さんで狭窄や疼痛のために肛門からの排泄が難しいと判断した場合、人工肛門をつくることがあります。ただし、クローン病では永久的な人工肛門となる場合が大半なので、患者さんが十分に受容することが必要です。

クローン病は基本的には内科の病気ですから、手術の間だけ外科で治療を受けるということになります。術後は、内科で治療を継続します。
潰瘍性大腸炎の場合、手術で大腸を全摘すれば、その後回腸嚢炎を除くと再燃しないのとは異なり、クローン病では再燃させないために寛解維持療法を続けなければなりません。内科的治療を行っていても狭窄による腸閉塞や、新たなろう孔形成があれば再び手術が必要です。

潰瘍性大腸炎の方は基本的に、術後は食事の制限がありませんが、クローン病の方は、食事が病状に影響を与えることが懸念されますので、薬物療法に加え、栄養療法や食事療法を追加することもあります。

*  *  *

潰瘍性大腸炎もクローン病も手術のタイミングを誤ると、QOLは著しく低下し、術後の成績も悪くなります。自分の意見だけではなく、内科の主治医ともよく相談し、手術の時期を誤らないようにしましょう。

池内 浩基(いけうち・ひろき)先生ご経歴


本籍地 香川県

生年月日 昭和36年11月19日

【学  歴】

昭和55年3月
香川県立丸亀高等学校卒業
昭和56年4月
兵庫医科大学入学
昭和62年3月
兵庫医科大学卒業

【学  位】

平成9年9月
医学博士 (兵庫医科大学)

【職  歴】

昭和62年7月
兵庫医科大学第二外科入局 臨床研修医
平成4年6月
兵庫医科大学第二外科 医員
平成10年10月
兵庫医科大学第二外科 助手
平成16年4月
兵庫医科大学第二外科 講師
平成18年3月
兵庫医科大学第二外科 助教授
平成19年4月
兵庫医科大学 下部消化管外科 准教授
平成21年8月
兵庫医科大学 下部消化管外科 教授
平成23年4月
兵庫医科大学 炎症性腸疾患センター 教授 (配置換)
平成24年12月
兵庫医科大学 炎症性腸疾患センター センター長
平成25年12月
兵庫医科大学 炎症性腸疾患学講座 外科部門 主任教授

【学会活動等】

  • 日本外科学会 認定医・専門医・指導医・代議員
  • 日本消化器外科学会 認定医・専門医・指導医・評議員・編集委員
  • 日本大腸肛門病学会 専門医・指導医・評議員・専門医制度委員会委員・総務委員会委員
  • 日本消化器病学会 専門医・指導医・評議員・あり方委員会委員
  • 日本消化器内視鏡学会 専門医・指導医
  • 日本臨床外科学会 評議員
  • 日本腹部救急医学会 評議員・編集委員
  • 日本消化管学会 専門医・指導医・代議員
  • 日本炎症性腸疾患が学会 理事
  • 厚労省難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班 班員

【賞 罰】

*平成14年4月
第102回日本外科学会定期学術集会ポスター演題 最優秀演題賞
*平成17年10月
日本大腸肛門病学会賞
*平成20年2月
第4回日本消化管学会学術集会 口演優秀演題