Dr.コラム Doctors column

2018年5月

Vol.12 高齢者のIBDとどう向き合うか
診断、合併症、薬物相互作用、心構え

右肩上がりで増え続けているIBDの患者数。20~30歳代で発症するケースがもっとも多いのですが、最近は60歳を過ぎてから発症するケースも増えています。今回は、こうした高齢者のIBDにどう向き合えばいいか、国際医療福祉大学大学院長の三浦総一郎先生に話をうかがいました。

60歳を過ぎて発症した場合

国際医療福祉大学大学院長
三浦総一郎先生

近年、高齢者のIBDが増えているといわれています。ただし、それは国内のIBDの患者数が増えていることや、高齢者の割合が増えていることにも起因しています。
2012年時点で潰瘍性大腸炎の患者さんの約25%、クローン病の患者さんの約10%が60歳以上となっており、その8年前と比べると2倍ほどに増えています。これは、若年者に比べ、高齢者のIBD発症率が上がっているということではなく、日本の人口の年齢別構成が変わってきていることが主な要因です。

気をつけなければならないのは、高齢者のIBDと一口にいっても、若いときに発症した患者がそのまま高齢になったケースと、高齢になってから発症したケースがあることです。
近年、潰瘍性大腸炎では、60歳以上で発症した患者さんが増え続けており、今後も増加していくと考えられています。

かつては発症時期をあまり考慮せず、患者さんの年齢をもって「高齢者のIBD」として扱っていましたが、若年で発症したのか、高齢で発症したのかによって、大きな違いがあることが最近の研究で明らかになってきました。
若いときに発症した場合、治療を重ねていくうちに、徐々にその患者さんに合う薬もわかってきて、次第に落ち着いてくるケースが多いのです。そのため、全般的に高齢者のIBDは比較的軽症ではないかと考えられていたのです。

しかし実際には、高齢になってから発症した患者さんは、入院率や手術率が高い傾向にあることがわかってきました。事実、自治医大さいたま医療センターの先生方の論文1)や防衛医科大学校の穂苅量太医師らの研究でも、入院したり手術したりした高齢の患者さんのほとんどが、高齢発症のケースだったと報告しています。また、高齢者は他の疾患を合併していることが多く、重症化するケースも少なくないので、注意が必要です。

高齢者がIBDを発症しても、若年者に対するのと同じように薬も効きますし、しっかり治療をすれば、症状は改善します。若年者と高齢者で、治療の内容もほとんど変わりません。何よりも、早くに治療を始めることが大事なのです。
ただし、高齢者の場合は、診断が典型的ではないために、治療開始が遅れる場合が出てくるのです。

高齢者のIBD治療に重要な鑑別診断

「治療を始めるためには、
  鑑別診断をしなくてはな
  りません」

高齢者のIBDの治療にあたって、もっとも大切なのは鑑別診断(疾患を絞り込むための診断)です。しかし、高齢者の場合、想定される疾患がいくつもあり、最初からIBDを考えて診断するケースの方が少ないからです。

高齢者を診断する際、IBDと似た症状がある疾患として、まず留意しなければならないものに、ディフィシル菌、サイトメガロウイルス、結核菌、病原性大腸菌、とくに腸管出血性大腸菌などによる感染症があります。

感染症以外にも、鑑別診断で注意を払わなければいけない疾患はいくつもあります。憩室炎、薬剤起因性腸炎、放射線腸炎、リンパ腫、がん、虚血性大腸炎、顕微鏡的大腸炎、アミロイドーシス、ANCA関連腎炎……、挙げだしたら枚挙にいとまがありません。これらは鑑別疾患というだけでなく、症状を悪化させる合併症ともなり得るので、鑑別診断がより大切になってきます。

したがって、どう鑑別するかが非常に重要なわけです。クローン病の場合、新規登録患者が年間1千人台しかいない。そうなると、鑑別診断でたくさんある疾患の中からクローン病と最初から診断するのは、治療者側にとって、かなり勇気がいることになります。
一方、潰瘍性大腸炎に関しては内視鏡で見れば、典型的なものはわかるので、鑑別診断で早く特定されるケースが増えています。

合併症「感染症」「がん」「静脈血栓症」

高齢者のIBDを治療するうえで、合併症に細心の注意を払わなくてはなりません。もっとも怖いのは感染症です。免疫を抑制する薬を使った場合、重篤化するケースがあります。

高齢で体力が低下している人にステロイド剤を使うと、日和見感染(通常は病原性を発揮しないウイルスや細菌などが引き起こす感染症)を起こしやすくなります。ときには、カリニ肺炎を引き起こすこともあります。防衛医科大学校の髙本俊介医師らは、ステロイドを使っている高齢者はサイトメガロウイルスの合併症が多かったと報告2)しています。

次に注意しなければならない合併症は、がんです。この場合、高齢になってからIBDを発症したかよりも、発症してからの年数がポイントになってきます。10年、20年と経っている潰瘍性大腸炎の患者さんで、全大腸炎型の方は、症状が落ち着いていても、定期的に検査をするなど気をつけなければなりません。

また、がんの既往歴のある高齢の患者さんに、免疫を抑制する治療をやってもいいかのという問題があります。たとえば、抗TNF-α抗体製剤などが議論の対象になると思うのですが、完治して2年以上経っていれば大丈夫だといわれていますが、気をつけなければならない点もあります。

抗TNF-α抗体製剤の単独投与では問題がなくても、免疫調節薬を併用すると、がん発症のリスクが上昇するといわれています。しかし、どうしても使わなくてはいけない場合もあり得ると思います。その場合はリスクをよく考えて、短期間の使用にとどめるべきでしょう。

ほかに注意すべき合併症に静脈血栓症があります。高齢者は心血管系の合併症が多いのですが、入院したりすると静脈血栓症になりやすく、とくに気をつけなければなりません。検査を定期的に行っていても、合併症が生じたら、抗凝固薬や抗血小板薬を積極的に投与することになります。少し前までこれらの薬剤はIBDの症状を悪化させるのではないかといわれてきましたが、現在は関係がないことがわかっています。

薬について、薬物相互作用の問題

高齢者はIBDの薬以外にも、さまざまな薬を服用していることが多いので、薬物相互作用(血中に複数の薬が入って起こる別の作用や副作用)の問題にも留意しなければなりません。

潰瘍性大腸炎でもクローン病でもよく使われる5-ASA製剤は腎毒性があるので、高齢者では、心不全や腎機能障害に対する注意が必要です。
また、5-ASA製剤は、抗凝固薬の作用を高める可能性がありますし、免疫調節薬の中には、逆に抗凝固薬の効果を減弱させるものがあることが知られています。

とくに注意していただきたいのは、免疫調整剤と痛風の治療薬である尿酸生成抑制薬を併用する場合です。骨髄障害が出やすくなってしまう可能性がありますので、痛風の持病がある方は注意が必要です。

抗TNF-α抗体製剤の効果は、若年者と遜色ない結果を示しています。ただし、副作用が原因で治療の継続ができなくなってしまうことがあり、多剤を併用した場合には副作用や合併症に対する注意が必要となります。

薬について気になることがある場合は、主治医や薬剤師等に相談するようにしましょう。

発症したときの心構え

下痢が長く続く、血便、腹痛、発熱などの症状に気づいたら、すぐに病院に行ってほしいと思います。下血に伴って貧血を起こすこともあり、食欲が落ちて栄養状態が悪くなってくると、全身状態が悪化することもあります。とにかく早く、病院で診てもらうことです。とりあえずの様子見はもってのほかです。専門医に診てもらい、しっかり症状を把握するのが先決です。
最初、近くのクリニックを受診する方も多いかと思いますが、循環器科や呼吸器科ではなく、消化器科のクリニックを受診するようにしてください。

病院を受診する際は、その後の治療を考え、現在服用している薬などの情報をきちんと伝えてください。そして、できる限り早く適切な治療をして、よい状態にもっていけば、予後はそれほど悪くありません。
体調が悪いのを我慢して、自宅で頑張ろうというのは禁物です。

1)Matsumoto S, Miyatani H, Yoshida Y: Dig.Dis.Sci,58:1306-1312.2013
2)三浦総一郎、髙本俊介、渡辺知佳子ほか:下部消化管疾患の治療ガイドラインと高齢者への適応.日本高齢消化器病学会誌 13:7-12,2011.