Dr.コラム Doctors column

2018年4月

Vol.11 日常生活を送る上での注意点(後)
ストレス、小児IBD、妊娠・出産……

兵庫医科大学で炎症性腸疾患学講座内科部門の教授を務める中村志郎先生に、前回に引き続き、IBDの患者さんが日常生活で気をつけなければならない点についてうかがいます。前回は食事、嗜好品、運動に対する注意点をお聞きしました。後編では、ストレス、小児のIBD、妊娠・出産などにどう向き合えばいいかをお話しいただきます。

ストレスへの対応

兵庫医科大学
炎症性腸疾患学講座
内科部門
教授 中村志郎先生

患者さんの多くはご自身が抱えているIBDという病気について、精神的なストレスが病状の増悪に影響を与えるという認識をおもちだと思います。事実、ストレスと病状の悪化の関連性については数多く指摘されていますし、実際に診療をしていても、そうした傾向はしばしば経験します。したがって、過重なストレスをなるべく生じさせないようにするのが大切なのですが、これは口でいうほど簡単なことではありません。患者さんの置かれている環境がストレスを誘発する場合が少なくないからです。

発症時期は、クローン病で10~20代、潰瘍性大腸炎では20~40代が多く、この時期は進学、就職、結婚、出産など、さまざまなライフイベントを迎えることになります。そこで生じた様々なストレスが病状に影響を与えることが少なくないので、私たち医療者側も患者さんとしっかりコミュニケーションをとり、患者さんの人生の節目では不安を取り除くように努めます。

特に注意を払わなければいけないのは、就職してからです。職場でのストレスに、どう対応するかは、非常に重要です。人間関係のストレスや労働条件によるストレスなど、さまざまな負担が患者さんにかかってきます。

症状に対してマイナスをもたらす環境は改善しなければなりません。再燃や増悪(ぞうあく:病状が悪化すること)を防ぐためには、ときに会社を休んで自宅療養をする必要もありますが、現実的にはそう簡単なことではありません。患者さんに頼まれて「安静を要す」といった会社への提出書類を書くことがありますが、これもたび重なると、職場での立場に影響を及ぼす場合があります。再三、休みをとっていたら、配置換えされてしまったという話を耳にします。なかには、退職を余儀なくされるケースもあると聞いています。

勤務している患者さんたちにとって、“仕事上のストレス”と“働き続ける”という二つをどう折り合いをつけるかは、昔以上に難しくなっているような気がします。ここ2、3年に限れば、就職率は回復しているものの、労働環境は以前よりも厳しくなってきています。多くの患者さんは「働き続けたい」と願っていますので、無理をするケースもしばしば出てきます。医療的にこれ以上は厳しいと思えるほど、心身に負担がかかっていても、いままで通りに働き続けようとするのです。

勤務を続けられるかどうかは、患者さんにとって、とても重要な問題です。医療者は治療だけしていればいいというものではありません。そうした問題を考慮しながら、患者さんと向き合わなければなりません。
IBDという病気を抱えていることを就職時に会社に伝えている患者さんでも、受診の回数が増えるのは困るという方が少なくありません。病院に来ると、どうしても一日仕事になってしまいます。それが月に2度、3度となると、会社側もいい顔をしないというのです。また、月末や月初めは会社の仕事が忙しいので、診察日を外してほしいという要望もよくあります。

医療者側としても、患者さん一人ひとりの状況を考えて、通院上の配慮をするようにしています。しかし、そうしたことだけでは、患者さんのストレスを解消するには不十分です。専門医としてはもっと、患者さんの社会的な問題に対しても関われるような環境づくりが必要だと痛感しています。

患者さんは、抱えている悩みや不安、治療費の問題など、担当医に話しづらい場合は、コメディカルを活用することも念頭に入れておいていただければと思います。看護師さんなどに悩みを打ち明けてもらえれば、そこから担当医や関係部署にも伝わるので、ためらわずに相談してみてください。


転居先での病院探し

進学や就職などを機に引越しをして、これまで治療を受けていた病院に通うことが困難になった場合、事前に主治医に連絡をすれば、転居先の近くの病院へ紹介状を書いてもらうことができます。
しかし、すべての都道府県に専門医がいるかというと、必ずしもそうではなく、少し遠い専門病院まで通うことになる場合もあります。

過去にIBDの専門施設で治療を行っていた医師が開業している施設も徐々に増えてきましたので、今後、そのような専門医がいるクリニックなどの施設と医療連携が進むことで、患者さんが治療を継続するための便宜が図られるようになるかと思います。

また、病状が安定していれば、2、3ヵ月に1回の診療となるため、転居先の東京から当院に通っていらっしゃる患者さんもなかにはいらっしゃいます。


増加傾向にある小児のIBD

まだはっきりしたデータはないのですが、兵庫医科大学のここ10年くらいの新規発症の患者さんの年齢分布をみていくと、ある特徴的な傾向が現れています。潰瘍性大腸炎の場合、60歳以上の高齢で発症される患者さんと、18歳未満の若年発症の患者さんの両方が増えているのです。その数は以前の約1.5倍です。
高齢者のIBDについては、日本のみならず世界的にも増えているという報告があります。
また、若年発症のIBDの患者さんについては、海外では増えているとの報告がありますが、国内では疫学的な報告はまだないようです。

小児の患者さんの診療にあたって難しい点は、誰が診るのかということです。小児の患者さんを成人のIBDの専門医が診療するのかどうか、まだ一定のルールがなく、施設によって対応が異なっています。
たとえば、兵庫医科大学では小学校入学以降に発症した患者さんは私たちが治療にあたっています。一方、就学前の6歳未満の患者さんについては、小児科にIBDの専門医がいる医療機関で診察を受けるようにお願いしています。

一つ注意しなければならないのは、6歳未満のIBDは、潰瘍性大腸炎やクローン病ではなく、本質的には免疫不全のケースがありうるということです。免疫不全にともなって腸に炎症が起こり、潰瘍性大腸炎やクローン病に似た病変を起こすことがあります。単に潰瘍性大腸炎、クローン病と思って診療にあたっていると、なかなかうまく治療ができず、合併症を併発するケースがあるので、背景に免疫不全があるかどうかを見逃さないことが重要です。

小児のクローン病に有効なバイオ医薬品

「小児のIBDの治療
  では、発達・成長につ
  いても注意して診てい
  かなくてはなりません」

小児のIBDを治療していく際に、病状とともに気をつけなければならないのは、発育の問題です。主治医として、年齢に見合った発育を遂げているかも意識しています。

潰瘍性大腸炎やクローン病の治療でステロイド薬を使いすぎると、骨端線(骨の端と中央部をつなぐ軟骨成分。成長を左右する)が伸びずに低身長になることがあるとの報告があります。ステロイドの使用はできるだけ必要最小限に抑え、より早くステロイドから離脱できるような内科治療をすることになります。

また、クローン病についてはきっちりと症状をコントロールしないと、栄養障害による低身長が懸念されます。小児の患者さんは厳しい食事制限や栄養療法を安定的に守れる年頃ではありません。したがって、より積極的にバイオ医薬品の抗TNF-α抗体製剤を導入するようにして、疾患活動性を抑えるようにします。小児発症のクローン病は、わりと早期に病状が進行しやすいという特徴があるので、早めに同製剤を投与することになります。

この薬を使うもうひとつのメリットは肛門病変、特に痔ろうに対して非常に効果的だということです。小児のクローン病の患者さんは、他の年齢層の患者さんより肛門病変を併発するケースが多いのです。クローン病の症状の出発点が肛門病変ということも少なくありません。そうした意味でも、早めに抗TNF-α抗体製剤を使って、症状をコントロールしていく場合が多いのです。

妊娠・出産時の薬の服用

IBDは比較的若い時期に発症することが多く、女性では病気の治療と並行して、結婚、妊娠、出産を経験されるケースが多いと思います。

患者さんが挙児(子どもを得ること)希望された場合、最初に主治医は「寛解期(症状が落ち着いている時期)に、妊娠するようにしましょう」と話します。活動期に妊娠すると、その後の計画が困難になったり、流産のリスクが上がったりします。また、出産まで漕ぎ着けても、低出生体重児となる心配が高まります。

二つ目の問題として大切なのは、妊娠したあと、出産・産後までの期間、できるだけIBDの症状が再燃しないようにすることです。ただ、現実には、再燃するケースは少なくありません。報告によってバラつきはあるのですが、30~40%くらいの方が再燃しています。再燃の時期は、妊娠初期と産後に多いといわれ、国内、海外とも同じ傾向がみられるようです。産後に多い理由は女性ホルモンの関係と推察されています。妊娠から産後にかけては、患者さんの体内の女性ホルモンが急激に変動し、免疫に影響を与えて、再燃のきっかけになるのではないかと考えられています。

妊娠初期の再燃は、防ぐことができるケースが少なくありません。妊娠初期に再燃が多い理由として、妊娠が判明したとき、胎児への薬の悪影響を心配して、使用を中断してしまうことが考えられます。ご自身の判断で服用を控えてしまう患者さんがいらっしゃるのです。

IBDの治療に使われている薬について、日本産科婦人科学会が編集・監修した産科のガイドラインの最新版において、「妊娠判明時まで服用している薬剤を、妊娠判明を起点として中止する必要はない」という主旨のコメントが載せられています。
また、IBDの患者さんが多いヨーロッパや北米の国々では、治療を継続しながら、妊娠・出産された例が報告されています。

最新のエビデンス(科学的根拠)による薬の評価には、過去の評価と比べ大きなかい離がある場合があります。従って、自己判断で薬を中断することなく、不安なこと、不明なことがありましたら、主治医によく相談してください。

妊娠中の再燃

妊娠中に再燃した場合はどうしたらいいのでしょうか。抗TNF-α抗体製剤が登場する以前でも、潰瘍性大腸炎の再燃は多くの場合、ステロイド薬を使い、コントロールしてきました。

一方、クローン病の再燃は、出産に大きな影響を与えてしまうことがあります。
クローン病の患者さんが再燃した際の好発部位(病変が起こりやすい場所)は子宮の近くなのです。小腸と大腸のつなぎ目あたりに炎症が起こることが多いのですが、そのすぐ側に子宮があります。腸管の炎症が子宮を刺激して収縮を起こし、早産や流産のリスクが高まることが考えられます。
そのような事態に対しては、クローン病に対する内科治療に加えて、すぐに産科の医師に診てもらい、子宮の収縮抑制剤を使って、早産や流産を防ぎます。
出産までは、担当医としても緊張の連続です。以前は胎児がある一定のレベルまで成長しているのを確認して、帝王切開で出産。無事に赤ちゃんが生まれて、ようやく胸を撫で下ろしていたのです。

しかし、抗TNF-α抗体製剤が登場してからは、クローン病の患者さんに関しても状況は一変しました。非常に安定した寛解が長く続くのです。安定した寛解は、母体の栄養状況も良好になりますから、胎児の順調な成長につながります。

最後に、出産後の治療についてもお話ししておきましょう。母体の体調をよい状態で維持することが、育児をしていくうえで、大変重要になります。
治療方法・治療スケジュール、不安なこと、不明なことがありましたら、ご自身で判断せず、主治医によく相談してください。

中村 志郎(なかむら・しろう)先生ご経歴


兵庫医科大学 炎症性腸疾患学講座 内科部門 教授
       腸管病態解析学(寄付講座) 兼任
兵庫医科大学病院 IBDセンター 副センター長 兼任

【学  歴】

昭和61年3月
富山医科薬科大学医学部 卒業
昭和61年5月
医師免許取得(医籍登録番号:第298638号)
平成元年4月
大阪市立大学大学院 医学研究科 内科系(第三内科)専攻 入学
平成5年3月
同上 課程修了

【学  位】

平成5年3月
医学博士学位取得(大阪市立大学)

【職  歴】

昭和61年5月
大阪市立大学医学部附属病院 臨床研修医
昭和63年4月
大阪市立大学医学部附属病院 前期臨床研究医
平成5年4月
若草第一病院 消化器内科 医長
平成6年4月
大阪市立大学医学部附属病院 後期臨床研究医
平成6年10月
大阪市立大学 第三内科 助手
平成14年7月
大阪市立大学医学部附属病院 総合診療センター 講師
平成16年4月
大阪市立大学 第三内科 講師
平成17年4月
りんくう総合医療センター市立泉佐野病院 消化器科 部長
平成19年4月
兵庫医科大学 内科学下部消化管科 准教授
平成24年4月
兵庫医科大学 内科学下部消化管科 教授
平成24年12月
兵庫医科大学 腸管病態解析学(寄付講座) 教授(兼任)
平成24年12月
兵庫医科大学病院 IBDセンター 副センター長(兼任)
平成26年1月
兵庫医科大学 炎症性腸疾患学講座内科部門 教授

【所属学会等】

  • 日本内科学会(地方会評議員)
  • 日本消化器病学会(地方会評議員/学術評議員)
  • 日本消化器内視鏡学会(地方会評議員/学術評議員)
  • 日本大腸肛門病学会(評議員)
  • 日本消化管学会
  • 日本カプセル内視鏡学会
  • 日本炎症性腸疾患学会

【班員】

厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業
「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班  研究分担者 (平成24年度より)

【専門医等】

  • 日本内科学会 認定医・指導医
  • 日本消化器内視鏡学会 専門医・指導医
  • 日本消化器病学会 専門医・指導医
  • 日本カプセル内視鏡学会 認定医・指導医
  • 日本消化管学会胃腸科専門医・指導医

【賞 罰】

*平成6年2月
大阪市医学会賞:炎症性腸疾患における細胞接着分子発現
In situ expression of the cell adhesion molecules in inflammatory bowel disease -Evidence of immunologic activation of vascular endothelial cells-., Lab Invest 69,77-85,1993
*平成9年11月
日本消化器内視鏡学会学会賞(奨励賞):急性出血性直腸潰瘍に関する臨床的研究
・急性出血性直腸潰瘍の成因に関する研究
-側臥位と仰臥位における直腸粘膜血流の検討 -、Gastroenterol Endosc 38、1481-1487、1996
・急性出血性直腸潰瘍50例の臨床的検討、Gastroenterol Endosc 39、175-182、1997

【主な専門】

1.
炎症性腸疾患の診断と治療
2.
炎症性腸疾患の免疫学的な病態の解明
3.
大腸疾患(炎症性病変・腫瘍性病変)の内視鏡診断と治療
4.
カプセル内視鏡やダブルバルーン内視鏡を用いた小腸疾患の診療