Dr.コラム Doctors column

2018年3月

Vol.10 日常生活を送る上での注意点(前)
食事・飲酒・喫煙・運動編

数年後には国内の患者数が潰瘍性大腸炎20万人、クローン病5万人にまで増えると予想されているIBD。いまやめずらしい病気ではなくなりつつありますが、長い期間つきあわなければならないだけに、普段の生活が非常に重要になってきます。日常生活を送る上での注意点を、兵庫医科大学の炎症性腸疾患学講座内科部門で教授を務める中村志郎先生にうかがいました。

寛解期の食生活

兵庫医科大学
炎症性腸疾患学講座
内科部門
教授 中村志郎先生

日常生活において、まず気をつけなければならないのは食事です。潰瘍性大腸炎とクローン病を比較した場合、病気の発症、再燃、増悪に対する影響はクローン病のほうが大きいと、一般的には考えられていますが、いずれも注意は必要です。

寛解期(症状が落ち着いている時期)に、クローン病の患者さんだけでなく、潰瘍性大腸炎の患者さんに対しても申し上げているのは「暴飲暴食は避けてください」ということです。偏食はせず、ジャンクフードやファストフードも過量に摂取しないようにします。栄養学的には、高タンパク、高カロリー、低脂肪、低残渣(食物繊維など消化しにくいものをあまり含まない)が基本になります。

とはいっても、潰瘍性大腸炎の寛解期の場合は、あまり神経質になる必要はなく、「健康な状態のときにされていた食生活を心がけてください」と、患者さんには話しています。偏りがさほどなければ、問題はありません。

一方、クローン病の患者さんは、食事の摂取内容に病状が影響を受ける度合いが大きいとされてきました。寛解期であっても、潰瘍性大腸炎の患者さんに比べ、より多くの注意を払う必要があったのです。とりわけ気をつけなければならないといわれてきたのは、脂肪の摂取量です。国内外の疫学的な調査からも、脂肪の摂取量が再燃や症状の増悪を左右することがわかっています。

これまで脂肪は1日30gくらいまでにとどめるようにといわれてきました。摂取内容についても、動物性脂肪を避け、フィッシュオイル、シソ油、エゴマ油といったn-3系脂肪酸を多く含むものが推奨されていました。このようなことに注意して、生活に取り入れることは大切ですが、近年は状況が変わりつつあります。

抗TNF-α抗体製剤が登場してからは、食生活においても昔ほどシビアではなくなってきたのです。
それ以前の治療薬を使っていたクローン病の患者さんは、厳密な食事制限が課せられていました。しかし、抗TNF-α抗体製剤の登場以降、食事制限をそこまで徹底しなくても、腸管の炎症はある程度、薬によってコントロールできる状況が生まれています。

少なくとも、症状が安定している寛解期のクローン病の患者さんについては、極端に厳密な食事制限をする必要はなくなりました。潰瘍性大腸炎の患者さんと同じように、良好な状態が維持されている場合は、様子を見ながら、健康時に近い食生活に戻すように指導しています。最近、そのようにしてよい結果が得られているクローン病の患者さんが増えているように感じます。

寛解期のアルコール、カフェイン

適量のアルコールであれば飲んでもかまいません。350mlの缶ビール1本、日本酒であれば1~2合くらいでしたら問題ないでしょう。体質的にアルコールを受けつけない人はともかく、患者さんには「みんなと一緒に乾杯する程度なら結構ですよ」と伝えています。

コーヒーや日本茶に含まれるカフェインに関しては、制限する必要はないと思います。IBDの患者さんに対して、カフェインが何らかの消化器症状を誘発したり、再燃のリスクを上げたりするといった報告はいまのところありません。また、過去の発症に関するリスク調査でも、カフェインが危険因子として報告されたことはありません。

それほどデータは多くないのですが、過去の疫学調査では、日本茶を多く飲んでいるほうがIBDを発症している人が少なかったという報告があります。だからといって、カフェインがIBDの抑制因子になるというのは早計です。
海外からも、コーヒーが発症のリスクになる、あるいは抑制因子になるといった報告は上がってきていません。

結論としていえるのは、あまり過敏になる必要はないということです。だからといって、1日にコーヒーを6杯も7杯もガブガブと飲んでいいというわけではありません。何事にもつけ、偏りがすぎるのは禁物。コーヒー好きの患者さんから1日何杯まで大丈夫かと聞かれたときは、「3杯までなら」と答えるようにしています。

活動期(軽症~中等症)の食生活

軽症~中等症は、簡単にいうと、再燃はしているけれど、症状の程度としては、外来で十分、対応が可能な段階です。
ただし、腸に炎症があるので、腹痛や下痢が起こりやすく、潰瘍性大腸炎の患者さんであれば、血便といった症状も加わってきます。したがって、内科的な治療を強化する一方で、食事の内容が非常に重要になってきます。

基本は寛解期と同じで、高タンパク、高カロリー、低脂肪、低残渣ということになりますが、さらに細やかな対応が望まれます。腸を刺激しない消化のよいものを選び、脂肪の多く含まれるものは減らし、アルコールは完全に控えるようにします。

刺激物も極力、避けます。患者さんによってはカレーや担々麺など、辛いものが大好きという人がいますが、「症状が落ち着くまでは控えてください」とアドバイスしています。

クローン病の患者さんの場合は、食事制限をすると、目に見えて消化器症状が改善するケースが多いです。内科的な食事制限や絶食がクローン病の症状を落ち着かせることにつながるのです。

長い病歴のクローン病の患者さんでは、調子が悪くなると、自分で判断して食事を控えられ、手持ちの経腸栄養剤だけを摂取される方もいます。そして、消化器症状が改善されれば、再び寛解期の食生活に戻すわけです。過去に栄養療法を経験したことのある患者さんでは、消化器症状に合わせて、食事の摂取量を控える方もいます。医師がいわなくても、経験的にご存じの方が多いのです。

ただ、抗TNF-α抗体製剤が登場して以降に、クローン病を発症した患者さんの中には、食事制限や経腸栄養療法を経験されていない方も少なくありません。そうした患者さんが増悪(ぞうあく)した場合、まずは薬物での対応になります。ステロイド薬やバイオ医薬品を増量したり、投与間隔を短くしたりします。また、このような際に、医師の側は患者さんに従来の治療法をお伝えするひとつのいい機会と考えてもいるのです。
たとえば、1日の食事のうち1食分を経腸栄養剤にして、こうした治療法があることを理解していただく。食事によって消化管にかかる負荷を減らす方法を知ってもらい、何かあったときにはご自身でも対応できるようになれば、そのメリットはとても大きいのです。

活動期(重症)の治療

「新しいタイプの
  の登場で入院しなく
  ても治療ができるケ
  ースが増えています」

潰瘍性大腸炎の患者さんの重症例では、経口摂取を控えて、中心静脈栄養法(カテーテルを中心静脈に留置し栄養を投与)が用いられます。経静脈的に水分や電解質を管理するのです。
一方、クローン病の場合、かつては、ほとんどの患者さんに入院していただき、最低で1カ月、長い場合は2カ月ほど、絶食にして、中心静脈栄養法によって、腸管の安静を図っていました。

ところが、最近は抗TNF-α抗体製剤を治療に使うことで、外来でも対応できるようになってきました。このようなときには、低タンパク血症、低コレステロール、電解質の異常、微量元素の減少などが起こっているので、経腸栄養療法を行いながら、消化のよい食事を控えめに取っていただきます。そして、寛解を目指すのです。

よほどの重症でない限り、外来で治療するケースが増えていますが、私が勤める兵庫医科大学では、患者さんに1泊2日、入院していただいています。静注の抗TNF-α抗体製剤を使う場合、最初の3回だけは入院して投与するというのが当病院の取り決めになっているからです。いずれにしても、クローン病の重症の場合でも、多くの患者さんが1カ月くらいの外来治療で症状の寛解が得られています。

喫煙は是か非か

喫煙とIBDの関わりについては、まだ十分に解明されていないのですが、疫学の方面からは潰瘍性大腸炎とクローン病では、その影響がまったく異なるという報告がされています。

潰瘍性大腸炎に対しては、喫煙は発症の抑制因子になっているといわれています。実際に数多くの患者さんと接してきて、そうした印象はあるのですが、だからといって喫煙を勧めることは決してありません。タバコを吸っている患者さんに対しては、「誤解しないでください。潰瘍性大腸炎という疾患だけでしたら、喫煙は悪くありませんが、からだ全体としては間違いなく健康障害のほうに作用します。潰瘍性大腸炎だから吸っていてもいいということにならないのです」とお話しさせていただいています。

一方、クローン病のほうは明らかに、喫煙が発症に対してリスクになると同時に、増悪因子でもあります。さらには、バイオ医薬品を含めた内科的な治療への抵抗因子にもなっています。これは世界的に統一されたエビデンス(科学的根拠)です。喫煙されているクローン病の患者さんに対しては、禁煙していただくのが基本です。ただ、ストレスの多い疾患なので、全員が禁煙に成功したかとなると、難しいのですが……。

運動の注意点

潰瘍性大腸炎の患者さんで寛解期であれば、普通に運動していただいてかまわないと伝えています。学校の授業の体育、課外活動などは、基本的に制限する必要はありません。

ただし、判断が分かれるのは水泳です。ずっと寛解期が続いている患者さんなら、入水制限することはありませんが、問題となるのは、現時点で寛解期であっても、再燃を繰り返してきた場合です。ケースバイケースですが、患者さんの様子を見て、「おなかを冷やすので、プールはちょっと控えましょう」という場合もあります。

クローン病の患者さんについては、過度の肉体の疲労が症状に影響を与えやすいので、寛解期であっても運動全般を控えていただくケースが少なくありません。もともと、栄養障害のために痩せ型の方が多いですし、慢性的な貧血に悩まされている方もいます。結局、一人ひとりの症状を見ながらの判断になります。

活動期は、潰瘍性大腸炎、クローン病いずれも、運動を控えていただくことになります。もっとも、医師が指示をしなくても、患者さん自身が運動に取り組みにくい状況に置かれているケースがほとんどです。ランニングやジョギングなどをしていても、しばしば腹痛に悩まされ、トイレの問題も出てきます。学校の体育なども控えることになりますが、症状が落ち着いてくれば、また復帰できるので、あせらないようにしてください。


後編では、ストレスがIBDにもたらす影響、小児のIBD、IBDの方の妊娠・出産などについて中村先生にうかがいます。

中村 志郎(なかむら・しろう)先生ご経歴


兵庫医科大学 炎症性腸疾患学講座 内科部門 教授
       腸管病態解析学(寄付講座) 兼任
兵庫医科大学病院 IBDセンター 副センター長 兼任

【学  歴】

昭和61年3月
富山医科薬科大学医学部 卒業
昭和61年5月
医師免許取得(医籍登録番号:第298638号)
平成元年4月
大阪市立大学大学院 医学研究科 内科系(第三内科)専攻 入学
平成5年3月
同上 課程修了

【学  位】

平成5年3月
医学博士学位取得(大阪市立大学)

【職  歴】

昭和61年5月
大阪市立大学医学部附属病院 臨床研修医
昭和63年4月
大阪市立大学医学部附属病院 前期臨床研究医
平成5年4月
若草第一病院 消化器内科 医長
平成6年4月
大阪市立大学医学部附属病院 後期臨床研究医
平成6年10月
大阪市立大学 第三内科 助手
平成14年7月
大阪市立大学医学部附属病院 総合診療センター 講師
平成16年4月
大阪市立大学 第三内科 講師
平成17年4月
りんくう総合医療センター市立泉佐野病院 消化器科 部長
平成19年4月
兵庫医科大学 内科学下部消化管科 准教授
平成24年4月
兵庫医科大学 内科学下部消化管科 教授
平成24年12月
兵庫医科大学 腸管病態解析学(寄付講座) 教授(兼任)
平成24年12月
兵庫医科大学病院 IBDセンター 副センター長(兼任)
平成26年1月
兵庫医科大学 炎症性腸疾患学講座内科部門 教授

【所属学会等】

  • 日本内科学会(地方会評議員)
  • 日本消化器病学会(地方会評議員/学術評議員)
  • 日本消化器内視鏡学会(地方会評議員/学術評議員)
  • 日本大腸肛門病学会(評議員)
  • 日本消化管学会
  • 日本カプセル内視鏡学会
  • 日本炎症性腸疾患学会

【班員】

厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業
「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班  研究分担者 (平成24年度より)

【専門医等】

  • 日本内科学会 認定医・指導医
  • 日本消化器内視鏡学会 専門医・指導医
  • 日本消化器病学会 専門医・指導医
  • 日本カプセル内視鏡学会 認定医・指導医
  • 日本消化管学会胃腸科専門医・指導医

【賞 罰】

*平成6年2月
大阪市医学会賞:炎症性腸疾患における細胞接着分子発現
In situ expression of the cell adhesion molecules in inflammatory bowel disease -Evidence of immunologic activation of vascular endothelial cells-., Lab Invest 69,77-85,1993
*平成9年11月
日本消化器内視鏡学会学会賞(奨励賞):急性出血性直腸潰瘍に関する臨床的研究
・急性出血性直腸潰瘍の成因に関する研究
-側臥位と仰臥位における直腸粘膜血流の検討 -、Gastroenterol Endosc 38、1481-1487、1996
・急性出血性直腸潰瘍50例の臨床的検討、Gastroenterol Endosc 39、175-182、1997

【主な専門】

1.
炎症性腸疾患の診断と治療
2.
炎症性腸疾患の免疫学的な病態の解明
3.
大腸疾患(炎症性病変・腫瘍性病変)の内視鏡診断と治療
4.
カプセル内視鏡やダブルバルーン内視鏡を用いた小腸疾患の診療